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うたいしこと。(61) :第4章-19

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 続き
 



■第4章:最後のありがとう ―― 第19話



    ***


 式でもないのにあまり大勢で訪問するのは憚られた。
 当日分の部活動予定との兼ね合いもある。進一とほのかを学校に残し、花江さんの下には特に縁のあった拓実とゆい、そして引率役のあずさが駆けつけた。

「おばあちゃん……」

 眼前の姿に、ゆいが悄然と漏らした。
 花江さんは、自室のベッドに物言わず横たわっていた。
 顔には白布、両手を胸の上に置いた格好で。
 冗談でもなんでもない。事実という名の光景に、拓実とゆいは何も考えられなかった。 

「改めて、お悔やみ申し上げます」

「こうしてあなた方に来ていただいて、花江さんも喜んでいることでしょう」

 案内してくれた高遠と、あずさは丁寧に挨拶を交わす。
 立ち尽くす拓実とゆいへ、高遠が歩み寄った。

「陣内君、神原さん、これを」

 そう言って二人に手渡したのは、一通の手紙、というよりもメモ用紙だった。 

「そこの、写真立ての所に置いてあったんだ。おそらく花江さんが最後に書き遺したと……」

 呆然の色を残したまま、拓実は半ばおずおずと受け取った。ゆいと共に目を通す。


 たっくん、ゆいさんへ。
 ありがとう。お幸せに。


 字は、かろうじて読めるほどによれよれだった。
 既に弱りきり、力もろくに入らなかったはずの手で書いたのだろう。
 しかしそれゆえに、花江さんが万感の想いを込めて書き記したことを、如実に表していた。

「あ……」

 ふと、ゆいの口から小さく。

「写真……」

 拓実も顔を上げ、気付いた。
 メモが置かれていたという、ベッド脇のサイドテーブルの上。
 拓郎という男性の写真と、もうひとつ、フォトスタンドが増えていた。

 車椅子姿の花江さんが中心。
 ウェディングドレスで着飾ったゆい、そしてタキシードの拓実を両脇に。
 三人で、写った写真だった。

 皆、笑っていた。

「……高遠さん、お願いできますか」

「ええ……」

 あずさに促され、高遠は横たわる花江さんへと歩み寄った。
 拓実達の見守る前で、白布を丁寧に取り去る。

「あ……」

 また、ゆいが微かに声を漏らした。
 その顔は、拓実がここで最初に見た花江さんの寝顔とまるで変わらないようでもあり、

「おばあちゃん……笑ってる……」

 ただ、この上ないほどに安らかだった。

「……花江さん、全部わかってたんですかね」

 しばしの沈黙の後、拓実は誰ともなしにポツリと問いかけた。

 メモには『拓郎』ではなく、『たっくん』と記されていた。
 初めから全て承知の上で、花江さんはあの狂言に付き合ってくれたのだろうかと思うと、何とも言えず切ない気持ちになった。

「さあな……それはもう、我々には知る術がない」

 あずさは、感情を押し殺したように応えると、ややあって、

「私は以前君達に、心と身体はどちらも人間そのもの、欠けてはならぬ両輪だと言ったな」

 寂然と花江さんを見つめる拓実と、彼の隣に同じくして佇むゆいに投げかけた。

「だが、考えて欲しい。そうして人間として存在している『君達』とは一体何だ? 我々を我々たらしめているものとは何だ?」



 ...To be Continued...

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