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■第2章:新入部員初任務 ――第1話
拓実達の高校生活は、早くも4日目。
今日も今日とてうさぎさんぱんつのゆいに叩き起こされ、拓実は登校。
春うららの眠気を堪えて臨む授業はまだまだイントロダクションのようなもので、内容の難易度を実感できる段階ではない。
緊張の中にもお気楽感が漂う、そんなこの時期独特の空気が教室に満ちていた。
それにしても学校に購買だけでなく食堂まであるというのは、拓実にとってはカルチャーショックだった。
彼の中学ではささやかな購買でパンが買える程度だったのだ。
とは言え、彼は母手製の弁当持参組。
昼休みに入るや否や、既に打ち解けた他の男子と一緒に食べようと鞄から包みを取り出した。
が、そこへ電光石火で現われた人影に、
「ゆいがでてきてこんにちはっ! たっくんいっしょにたべるよっ!」
完全にイニシアチブを取られた。
抵抗する暇を与えず、ゆいは問答無用で手近な椅子を寄せ、瞬く間に拓実の机に自分の小さい弁当箱を広げた。
最初が肝心というつもりなのか、童顔に似合わぬしたたかさだ。
中学時代に何度となく経験してきたが、下手に無視すればゆいはどこまでもついてくるだろう。そのフォローの面倒さを知るがゆえに観念し、本日も幼馴染同伴の昼食と相成った。
既に諦観完了していた拓実だが、それでも変な噂が立つんじゃないか思うと少し憂鬱になる。
もちろん、既に入学初日の時点で立っていたことなど知るよしもない。
***
そんなこんなで放課後。
いくら面倒でも、昨日の今日で早速エスケープぶちかますほど拓実は薄情ではない。何やら心底うきうきした様子のゆいと共に部室へと向かう。
そうして二人が部室の傍まで差し掛かったとき、話し声が聞こえた。
「そうか。もう残りは、たったそれだけなのだな……」
拓実達は思わず立ち止まり、互いの顔をきょとんと見つめ合った。幻聴ではないらしい。
「私一人の時は五年かけて半分にも満たなかったというのに。やはり持つべきものは仲間、か。この部を作って本当によかったよ」
声は部室の中から。そして声音には聞き覚えがある。
他ならぬその部屋の主、鳳凰院あずさのそれだ。
しかし立ち聞きは趣味が悪い。きっと他に誰か中にいるのだろうと納得して、拓実は部室のドアを開けた。
一応部員である以上遠慮する事はない。ゆいも少し慌ててその後に続く。
「っ!? や、やあ、よく来てくれた、陣内に神原」
あずさは、ちょうどパソコンの脇に立っていた。急に開いたドアに振り向いて見せた彼女の驚きは、昨日の泰然とした印象からすると妙に過剰だと、拓実には思えた。
それに、部室にはあずさ以外に誰もいなかった。じゃあさっきの話し声は電話でもしていたのか、とも考えたが、部長の手にそれらしき物はない。ボイスチャットにしても立ち位置が不自然だった。
だが、それら違和感も一瞬。
「ああ、そうだ。今日は二年生は遅くなるそうでな。藤原とほのかが来るまでこの部で活動する上での訓示、要は心構えについて講義しておこうと思う。少々長くなるのだが、構わんか?」
再び口を開いた彼女は、昨日の威厳と落ち着きを既にまとっていた。
言いながらあずさは、手近な椅子を二脚取って、昨日と同じように黒板の前に並べる。
「はいっ、もちのろんでっすっ!」
「うむ。では、ここに座ってくれたまえ」
ゆいの元気一杯な返事に首肯したあずさに促され、拓実達は素直に腰掛けた。
それにしても、あずさを前にすると拓実はなぜだか反発する気が失せてしまう。
この上級生の言葉には傾聴しなければならない、とさえ感じ、またそう強く感じてしまう自分を微かに不思議に思う。
「よし、では始めるとしよう。まずはこれを見てくれたまえ」
と。二人の前に立ったあずさは、さりげなく脇に置いてあった筒状に丸めた大判の紙を取ると、それを広げて黒板にマグネットで貼り付けた。
「うたいしえあ部、六訓?」
そこに書かれていた達者な文字を、ゆいがぽつりと読み上げた。
「うむ。これこそが、我がうたいしえあ部における訓戒だ。全部で六つ、ゆえに六訓だな。まずは目を通してくれ」
あずさが頷き、拓実も紙面に目を躍らせる。誰が書いたか知らないが、本当に達筆だ。しかし今重要なのはそこではない。
肝心の内容は、こうだった。
◎うたいしえあ部 六訓◎
一、労力を惜しまない。
二、できない事はしない。
三、親切の押し売りはしない。
四、困っている人、悩んでいる人を「救ってあげよう」としない。
五、特に拒む理由が無い限り、謝礼は断らない。
六、すぐに「ありがとう」が返ってくると思わない。
むしろ将来何倍もの「ありがとう」が返ってくるようにする。
「え、っと……これって、あれれ……?」
所々に違和感を感じているのだろう。ゆいがどこか釈然としない面持ちで首を傾げた。
...To be Continued...
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ponsun URL 2011年11月10日(Thu)07時55分 編集・削除
「ゆいがでてきてこんにちはっ! たっくんいっしょ
にたべるよっ!」
完全にイニシアチブを取られた。
抵抗する暇を与えず、ゆいは問答無用で手近な椅子
を寄せ、瞬く間に拓実の机に自分の小さい弁当箱を
広げた。
したたかかもしれませんが、この爽やかな強引さ
いやではありませぬ(嬉笑)
うたいしえあ部 六訓
良い味ですね
四と五が、お気に入りかもしれません )^o^(
ありがとうございます