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■第2章:新入部員初任務 ―― 第9話
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「相沢さんはここの飼育委員だそうでな」
一旦飼育小屋から出た一行は、金網の外から子犬達を眺める格好で、あずさの説明に耳を傾けていた。
きゅんきゅんと、時折子犬の哀願するかのような声が拓実の胸を打つ。
「彼女が捨て犬を拾ったのは昨日の早朝。小屋の世話のため早めの通学中だったにもかかわらず、見捨てられなかったそうでな。飼育委員というほどだから、よほど動物が好きなのだな」
「は、はい……」
あずさの言葉と視線を受けて、かなはやや縮こまって頷いた。
なるほど確かに心優しそうな、ともすれば少し気弱にも見える女の子だ、と拓実は思う。
「だが彼女の家はアパートでペット禁止だそうでな、仕方なしにこの小屋の空いている区画にかくまったんだ。飼育委員なので小屋の鍵も使えるからな」
拓実とゆいはそれで納得した。
飼育小屋に子犬とは少し妙な話だとは思っていたが、それならば合点がいく。
「しかしここで困ったことが二つ。まず一つは里親だ。保護したはいいが、あてがない。そして二つ目、彼女が授業を受けている間にこの子犬がある先生に見つかり、大目玉を食らったそうだ。他の先生のとりなしもあって、明後日までは置いていいという事になったそうだが、逆にいえばそれまでに里親が見つからなければ……」
「……どう、なるんですか?」
半端に言葉を切ってやや押し黙ったあずさに嫌な予感を覚えて、拓実はおそるおそる尋ねた。
そして、
「保健所送りだ」
「そんなっ……!」
あずさの短い断定に、ゆいが絶句した。
保健所に捕まったり預けられたりした捨て犬や野良犬が結果的にどうなってしまうのか、拓実もテレビなどで一応見知っていた。だが、今この瞬間までそれを本当に深く自覚した事はなかったのだと、痛烈に思い知らされた。
今目の前にいるこの罪も無い子犬達が、殺処分される。
手をこまねいていれば必ず訪れるであろう未来の姿が、現実的な重みとなって、二人の心へと唐突にのしかかってきていた。
「相沢さんもそれがどういう事かは知っている。学校の飼育小屋を勝手に私的利用したことへの責任もな」
口をつぐんだ拓実達、そして同じく沈痛にうつむいたかなを見やって、あずさは敢えて淡々と言葉を続ける。
「それに、現状ではこの子達は一時的に命を永らえたに過ぎん。タイムリミットは明後日、それまでに見つからなければアウトだ」
「で、でも……かなちゃんがこの子達を放っておいたら、もしかしたらこの子達今頃……」
「その通りだ神原。相沢さん、君は一時的にとはいえ、確かにこの子達の命を救った。繋ぎとめた。責任は責任として、それとは別に胸を張っていい」
「は、はい……」
ゆいの言葉に大きく一つ頷いて、あずさはかなを強く優しげな瞳で見据えると、小さな肩にそっと手を置いて励ました。
かなはそれで少し気を持ち直したのか、ちょっとだけくすぐったそうに頬を赤らめた。
「でも部長、実際どうやって里親なんて探すんですか?」
と、そこで。
水を差すかのようだとは思いつつも、拓実が真っ当な疑問を呈した。
「まあ、やる事は決まっているだろう。我々自身で飼うか、他に募るかだな」
「そりゃそうでしょうけど、どうやって募るんですか。時間も無いですし、ウチは親が犬嫌いですし」
「そうだよね、たっくんとこ。ゆいはもう飼ってるから無理だし……」
「ふむ。そうか、それは残念だ」
拓実とゆいの、しかしあずさは言葉ほど残念そうでもなく一つ頷くと、
「ならば古典的な手段を効率的な方法で推し進めるとするか」
そう言って、敏腕ビジネスマン顔負けのスマートな手つきで携帯電話を取り出した。
...To be Continued...
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ponsun URL 2011年11月18日(Fri)06時23分 編集・削除
飼育委員
懐かしい響きです!
小学生以来でしょうか
保健所送り
怖いことです!
なんとか命だけは、と祈ってしまいます
ありがとうございます