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■第2章:新入部員初任務 ―― 第12話
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「あ、お帰りなさい」
三人が紙束と共に部室へ戻ると、真っ先に進一がパソコンから顔を上げた。
「先輩、一応里親募集のウェブサイトにも情報を投稿しておきました」
「ああ、それは非常に助かる。ありがとう、藤原」
「お安い御用です」
あずさの労いに、進一は爽やかな笑みを返した。
かなは、ほのかが何やら裁縫しているのを椅子に座って興味深げに眺めていたらしい。
進一もほのかも、それぞれに他の仕事を請け負い、作業を地道にこなしている。その合間を縫ってこの里親募集にも協力してくれたのだ。嫌な顔ひとつ見せず、快く。
それを察して、拓実は頭が下がる思いだった。
「よし、相沢さん。いいかな」
あずさの呼び声に、かなは席を立ち、とことこと歩み寄ってきた。
机に置いた紙束を、あずさ、拓実、ゆい、そしてかなが囲むと、ビラを見たかなが「わぁ」と慎ましく感嘆の声を上げた。
そんな様子を三人は微笑ましく眺め、そしてあずさが一呼吸、自らに軽く気合を入れてから指示を発した。
「よし、それではこれより手分けだ。藤原とほのかはまだ別の仕事の途中だから省くとして……陣内、神原。君達は校内への貼り付けを頼む。掲示板外への掲示許可を貰ったわけだからな。嫌でも大勢の目に付く場所、例えば教室の出入り口などに貼り付けるんだ」
「はいっ! まっかせてくださいっ!」
ゆいの威勢のいい返事が至近距離で拓実の耳をつんざいた。
やっと出番だ、待ってました、時空を超えてゆい参上、とでも言わんばかりだ。
「うむ。私は隣の小中学校に出向いて、明日各教室に掲示してもらうよう掛け合ってくる」
「あっ、そうだっ。貼り付けるだけじゃなくて、余ったら部活中の人たちに配ってもいいですかっ?」
「ああ、もちろんだ。頼んでいいか」
「はいっ! ほらたっくんいくよっ!」
「え、あ、ちょ、ゆいっ……」
校内分のビラを掴んだゆいは、拓実を問答無用でずるずると引きずりながら部室を飛び出して行った。その後を「セロハンテープ忘れてますよー」と、気の利くほのかが慌てて追う。
そんな様子を苦笑しながら見送ったあずさだったが、
「あ、あの……」
その脇からおずおずと声を掛けられ、優しく微笑みながら振り向いた。
「なんだい、相沢さん」
「わ、わたしにも、その……なにか、できることはありませんか……?」
任せっきりなのが心苦しくなったのだろう。
口調こそ控え目だが、あずさをまっすぐ見つめるかなの瞳は子供特有の透明感も相まって強く煌き、あずさの心にえもいわれぬ暖かさを湧き起こした。
そして、あずさは小さな肩にそっと手を乗せると、
「相沢さん。君には君のやるべき事、君にしかできない事がある。あの子犬達を里親が見つかるまでしっかり守って、世話することだ」
「あっ……」
「君に依頼を受けた以上、我々は我々にできる事をする。だから君も、君のできる事をしっかりとやるんだ。それが、あの子達のためでもある」
あずさの言葉に、かなは何かを悟ったのだろう。目を見開いて、こくんとひとつ頷いた。
「それと、せめてご両親とクラスの友達には話しておくといい。君の家では飼えなくても、ご両親に里親の心当たりがある場合もある。子犬を一緒に守ってくれる友達が多ければ、かくまえる時間が伸ばせるかもしれない。君が我々に助けを求めたように、君の身近にいる人達にも助けを求めるんだ。必ず支えてくれる人はいる。一人で抱え込んではいけないよ」
「はい」
教師のように整然と、しかし母のように優しく語るあずさに、かなは再度、素直に首肯した。
その様子にあずさも満足げに頷くと、かなの肩をぽんと軽くひと叩き、
「よし。では我々も行こう。まずは君の小学校からだ。在校生である君がいれば私も心強い」
「あ……はいっ」
そして、自分にできる事を見つけられた少女は、今までにない力強さで一歩を踏み出した。
...To be Continued...
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ponsun URL 2011年11月21日(Mon)05時20分 編集・削除
エアーゆいちゃんでしょうか
いよいよ出陣ですね
ありがとうございます