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■第2章:新入部員初任務 ―― 第14話
「は? いきなり何を……」
「……あのね、ゆいをはげましてくれるのも、前はもう少し、ぶっきらぼうで、なんて言うか……ぐいって強引に引っ張ってくれる、みたいな感じだったんだけど」
ゆいはひとつひとつ噛みしめるように表現してゆく。
まるで手探りで言葉を捜しながら。そんな感じがした。
「でも今のは、ゆいを後ろから支えて、優しく押してくれたみたいな……そんな感じがしたよ」
「何だそりゃ? よくわかんねー」
「あー、うん。ゆいも言っててよくわかんないや。あははっ」
自分の発言をごまかすかのように、ゆいは明るく、短く笑った。
そしてまた、しばしの沈黙。
今夜は少し風が強い。
窓を揺らす音にふと、子犬達は寒くないだろうか、などと拓実は思いをめぐらせた。
「……ごめんね、たっくん」
突然、またしてもゆいの謝罪。
先程よりも、心なしか怯えたような声音で。
「何だよいきなり」
「部活に、無理矢理……さそっちゃったこと」
「ああ、その事か」
「うん……前にも嫌な思いさせちゃったのに、また同じことしちゃったよね。ゆいは……」
前、とは、昔強引にボランティアに誘われた時の事だ。
拓実にしてみれば確かにあの時は嫌で嫌でたまらなかった。
が、それを無意識に今の自分の心情に当てはめようとして、
「それこそ気にすんな。何だかんだで変な部だし、この先どうするかは決めてねーけど、本気で嫌だったらその時は自分でケリつけるからさ。今は俺達のできる事をやろうぜ」
拓実は、密かに驚いていた。
他でもない、自分の口から自然と出た台詞に。
今、うたいしえあ部という場に身を置く自分を、かつてのようにマイナスの感情で拒もうとはしていない、むしろたった二日という短期間で受け入れつつあるという事実に。
これもまた、変化だと自覚させられながら……。
「あ……うん、ありがと……」
電話の向こうで、ゆいが一瞬息を呑んだように思えた。
そして、彼女は何かを反芻するみたいに、うん、うん、と何度か小さく呟くと、
「うん、それじゃおやすみ、たっくん。ほんとにありがとねっ」
何か吹っ切れたように、いつもの快活な声音を取り戻した。
「ああ、また明日な」
世話の焼ける奴、と内心で苦笑しつつ、通話を切った。
その胸には何か、自分の居場所を見つけたかのような安堵感が漂っていた。
***
その翌日。
うたいしえあ部一同、部室に集合していた。
時刻はもうすぐ午後四時半、グラウンドからは運動部の掛け声が届く。
そんな中、
「うぅぅ……」
またしてもゆいは半泣きだった。
椅子に腰掛け、両手はグーで揃えた両膝に突っ張り、必死で何かを堪えるように唸っている。
ほのかはそんなゆいがいたたまれないのか、傍らにじっと座って寄り添っている。
進一は時折、ウェブサイト経由のレスポンスがないかパソコンで確認している。
あずさは窓辺で腕を組み、無言で空の向こうを眺めている。
言葉少ない部室を見渡し、心なし重苦しい空気にやりきれなくなって、拓実は密かに溜息をついた。
――里親希望者はいまだ現われていない。
高校生の拓実達はまだいいが、小学生であるかなはそう遅くまで学校に残れない。
実質的なタイムリミットは、もう間もなくと言っていい。
「ぅぅ……よし、決めたっ!」
静寂を突き破って唐突にゆいが立ち上がり、ほのかは驚きのあまりびくっと震えた。
どういう原理か、アホ毛も一緒に直立している。
「おい、ゆい、決めたっていきなり何を」
「小学校の先生にお願いして、もう少し期限延ばしてもらってくる!」
拓実をキッと睨むように見据えて、ゆいはもう我慢ならないといった様相で語気を荒げた。
「なっ、待てよゆい、んな事したって……」
「たっくん言ったじゃない! ゆい達にできる事をやろうって! ここでじっと待ってるなんてゆいにはもうできないのっ!」
まくし立てるが早いか、ゆいは小鹿のように駆け出した。
拓実の制止の声を振り切り、部室を飛び出そうとして、
「きゃっ!?」
出会い頭のタイミングで、部室に入ってこようとしていた誰かとぶつかった。
「あいたた……あっ、あのっ、ごめんなさいっ! 怪我はないですかっ!?」
「え、ええ、はい、大丈夫です。そちらこそお怪我は?」
「はいっ、ゆいも大丈夫ですっ。慌てちゃってて、本当にごめんなさいっ」
ぺこぺこ頭を下げるゆいに応えたその相手は女子生徒、二人組だった。
部員の顔見知りではないようだが、制服はこの学校のものだ。
「いえ……それで、あの……ここってうたいしえあ部ですよね?」
「はいっ、うたいしえあ部ですっ。何かご用ですかっ?」
「あの……子犬のチラシを見て来たんですけど……」
ゆいの目が、ぱあっと輝いた。
「こっちですっ、こっちっ!」
困惑する女生徒達の手を引いたゆいが、半ば駆け込むように小学校の門をくぐった。
拓実とあずさも苦笑しながら後を追う。
急な依頼が舞い込む可能性もあるので、進一とほのかは部室で留守番している。
一同は早足で校舎の裏手へと向かう。
が、その途中。
何やら飼育小屋の方が騒がしいのに気付いた。
...To be Continued...
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ponsun URL 2011年11月23日(Wed)08時44分 編集・削除
ゆいちゃんとたっくん
ナイスな関係ですね
自分にもこんな時が…(嬉笑)
ありがとうございます