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うたいしこと。(21) :第2章-14

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 続き
 



■第2章:新入部員初任務 ―― 第14話



「は? いきなり何を……」

「……あのね、ゆいをはげましてくれるのも、前はもう少し、ぶっきらぼうで、なんて言うか……ぐいって強引に引っ張ってくれる、みたいな感じだったんだけど」

 ゆいはひとつひとつ噛みしめるように表現してゆく。
 まるで手探りで言葉を捜しながら。そんな感じがした。

「でも今のは、ゆいを後ろから支えて、優しく押してくれたみたいな……そんな感じがしたよ」

「何だそりゃ? よくわかんねー」

「あー、うん。ゆいも言っててよくわかんないや。あははっ」

 自分の発言をごまかすかのように、ゆいは明るく、短く笑った。

 そしてまた、しばしの沈黙。
 今夜は少し風が強い。
 窓を揺らす音にふと、子犬達は寒くないだろうか、などと拓実は思いをめぐらせた。

「……ごめんね、たっくん」

 突然、またしてもゆいの謝罪。
 先程よりも、心なしか怯えたような声音で。

「何だよいきなり」

「部活に、無理矢理……さそっちゃったこと」

「ああ、その事か」

「うん……前にも嫌な思いさせちゃったのに、また同じことしちゃったよね。ゆいは……」

 前、とは、昔強引にボランティアに誘われた時の事だ。
 拓実にしてみれば確かにあの時は嫌で嫌でたまらなかった。
 が、それを無意識に今の自分の心情に当てはめようとして、

「それこそ気にすんな。何だかんだで変な部だし、この先どうするかは決めてねーけど、本気で嫌だったらその時は自分でケリつけるからさ。今は俺達のできる事をやろうぜ」

 拓実は、密かに驚いていた。
 他でもない、自分の口から自然と出た台詞に。
 今、うたいしえあ部という場に身を置く自分を、かつてのようにマイナスの感情で拒もうとはしていない、むしろたった二日という短期間で受け入れつつあるという事実に。

 これもまた、変化だと自覚させられながら……。

「あ……うん、ありがと……」

 電話の向こうで、ゆいが一瞬息を呑んだように思えた。
 そして、彼女は何かを反芻するみたいに、うん、うん、と何度か小さく呟くと、

「うん、それじゃおやすみ、たっくん。ほんとにありがとねっ」

 何か吹っ切れたように、いつもの快活な声音を取り戻した。

「ああ、また明日な」

 世話の焼ける奴、と内心で苦笑しつつ、通話を切った。
 その胸には何か、自分の居場所を見つけたかのような安堵感が漂っていた。



    ***



 その翌日。
 うたいしえあ部一同、部室に集合していた。

 時刻はもうすぐ午後四時半、グラウンドからは運動部の掛け声が届く。
 そんな中、

「うぅぅ……」

 またしてもゆいは半泣きだった。

 椅子に腰掛け、両手はグーで揃えた両膝に突っ張り、必死で何かを堪えるように唸っている。
 ほのかはそんなゆいがいたたまれないのか、傍らにじっと座って寄り添っている。
 進一は時折、ウェブサイト経由のレスポンスがないかパソコンで確認している。
 あずさは窓辺で腕を組み、無言で空の向こうを眺めている。
 言葉少ない部室を見渡し、心なし重苦しい空気にやりきれなくなって、拓実は密かに溜息をついた。

 ――里親希望者はいまだ現われていない。

 高校生の拓実達はまだいいが、小学生であるかなはそう遅くまで学校に残れない。
 実質的なタイムリミットは、もう間もなくと言っていい。

「ぅぅ……よし、決めたっ!」

 静寂を突き破って唐突にゆいが立ち上がり、ほのかは驚きのあまりびくっと震えた。
 どういう原理か、アホ毛も一緒に直立している。

「おい、ゆい、決めたっていきなり何を」

「小学校の先生にお願いして、もう少し期限延ばしてもらってくる!」

 拓実をキッと睨むように見据えて、ゆいはもう我慢ならないといった様相で語気を荒げた。

「なっ、待てよゆい、んな事したって……」

「たっくん言ったじゃない! ゆい達にできる事をやろうって! ここでじっと待ってるなんてゆいにはもうできないのっ!」

 まくし立てるが早いか、ゆいは小鹿のように駆け出した。
 拓実の制止の声を振り切り、部室を飛び出そうとして、

「きゃっ!?」

 出会い頭のタイミングで、部室に入ってこようとしていた誰かとぶつかった。

「あいたた……あっ、あのっ、ごめんなさいっ! 怪我はないですかっ!?」

「え、ええ、はい、大丈夫です。そちらこそお怪我は?」

「はいっ、ゆいも大丈夫ですっ。慌てちゃってて、本当にごめんなさいっ」

 ぺこぺこ頭を下げるゆいに応えたその相手は女子生徒、二人組だった。
 部員の顔見知りではないようだが、制服はこの学校のものだ。

「いえ……それで、あの……ここってうたいしえあ部ですよね?」

「はいっ、うたいしえあ部ですっ。何かご用ですかっ?」

「あの……子犬のチラシを見て来たんですけど……」

 ゆいの目が、ぱあっと輝いた。




「こっちですっ、こっちっ!」

 困惑する女生徒達の手を引いたゆいが、半ば駆け込むように小学校の門をくぐった。
 拓実とあずさも苦笑しながら後を追う。
 急な依頼が舞い込む可能性もあるので、進一とほのかは部室で留守番している。

 一同は早足で校舎の裏手へと向かう。

 が、その途中。

 何やら飼育小屋の方が騒がしいのに気付いた。



 ...To be Continued...

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  • コメント(2)

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コメント一覧

ponsun URL 2011年11月23日(Wed)08時44分 編集・削除

ゆいちゃんとたっくん

ナイスな関係ですね

自分にもこんな時が…(嬉笑)


ありがとうございます

せらつ@中の人 2011年11月25日(Fri)06時21分 編集・削除

>ponsunさん
>こんな時が
 にやにやしてしまうじゃないですかw
 ありがとうございますー^^