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■第2章:新入部員初任務 ―― 第15話
「あなた達そこをどいて帰りなさい! 今日までの約束だったでしょう!」
辺りに響いたのは、怒鳴り声。
「まだ今日は終わってねーだろー、そっちこそさっさと帰れよー」
「教師に向かって何ですかその口のきき方は!」
「まあまあ先生、落ち着いて……」
大人の女性と男の子が言い争い、それを別の大人がなだめる、そんな声だった。
何事かと顔を見合わせた拓実達は、急いで声のした方向へと駆け寄り、
「あっ」
飼育小屋の入り口に座っていたかなと目が合った。
かなだけではない。他にもかなと同じ年頃の子供達が男女取り混ぜ七、いや八人。
固まって座り込み、小屋に人間バリケードを構築していた。
彼女達の前には、絵に描いたようにお堅く神経質そうな教師らしき女性が仁王立ち。
その隣では地蔵並みに柔和な風貌の、これまた教師とおぼしき男性が立っていた。
と、突然闖入してきた高校生の一団に気付いた女性教師が振り向き、
「な!? あなた達、いったい何をしてい」
「かなちゃんっ! 里親希望の人をつれてきたよっっ!!」
ヒステリックな色の糾弾をぶった切って、ゆいが勢い良く叫んだ。
その言葉に、かな達はしばし呆然とした後、
「えっ……ほ、んと……?」
「うん、ほんとほんとっ! ほら、この人たちっ!」
唖然と呟いたかなに、ゆいは連れてきた女生徒達の姿を指し示した。
子供達は、しばらく互いの顔をきょろきょろと見詰め合って、
「……や、ったぁぁぁーっ!」
歓声が弾けた。
かな達は手を取り合い、喜びを隠そうともせずに飛び跳ねた。
ゆいは早速里親希望者をかなに引き合わせて、子犬との対面を促した。かなに導かれ、女生徒達は小屋へと入っていった。
「突然失礼しました。私は向かいの、うたいしえあ部部長の鳳凰院あずさと申します」
予期せぬ事態に呆然とする教師達へ、あずさが端然と声をかけた。
「そちらの相沢かなさんの依頼で、子犬の里親になってくれる方を案内してきました」
「ああ、あなた方が……私はあの子達の担任の内田です。こちらは立脇先生」
まだ若いが丁寧な感じの男の先生は、そう言って礼儀正しく挨拶。
立脇と呼ばれた女性教諭は、あずさに会釈されると少々機嫌悪そうに鼻を鳴らした。
「ところで、これはいったい何の騒ぎだったのですか?」
と、あずさが素直に疑問を呈すると、
「ああ、あなた方も事情はご存知だと思いますが、あの子犬の件でして」
やや苦笑交じりに内田が答えてくれた。
「小屋に入れておくのは今日までと立脇先生が相沢さんと約束してたそうなんですが、時間切れという事で立脇先生が子犬を出そうとしたところ、子供達が小屋を塞いで妨害したらしく」
その説明に立脇は更に憮然として顔を背けた。
「そうだったのですね。……私がこういう事を言うのもなんですが、相沢さんは子犬を守りたい一心で、我々に助けを求めてきました。そして、こうして身を呈してまで子犬達を守り通そうとしました。その真っ直ぐな気持ちは、認めてあげても良いのではないでしょうか」
事情を理解したあずさは立脇を見つめ、落ち着き払った物腰のままで訴えかけた。
「わ……わかっています! そんな事はあなたに言われずとも! しかし約束は約束、ルールはルールなのです!」
「はい、充分承知しています」
少しバツが悪いのか、視線は逸らし気味に言い立てる立脇先生に、あずさは瞭然と頷くと、
「承知した上で敢えて、相沢さんや……彼女達の事を、許してあげてはいただけませんでしょうか。この通りです」
「え……ぶ、部長っ!?」
そうしてあずさが見せた行為に、彼女の後ろで傍観していた拓実は驚愕した。
あずさは、深々と頭を下げていた。
驚いたのは拓実だけではない。内田も、そして立脇も目を丸くして、低頭するあずさを見つめていた。
そして、
「あのっ、あのっ、ゆいからもっ、お願いしますっ!」
いつの間にか傍に戻って来ていたゆいが、あずさに倣って勢い良く頭を垂れた。
この二人にだけこんな事をさせて、自分だけ黙っているわけにはいかない。
「っ、お……俺からも、お願いします!」
これまでの人生において例がないくらい、拓実は目一杯深々と、誠心誠意、頭を下げた。
「あ……その、あの……」
と、更にそこへおずおずとした少女の声。
「わ、わたしが、か、勝手にみんなをまきこんだんです……だ、だから、みんなのことは、怒らないでください! おねがいします……!」
小屋から駆け出してきたかなまでもが、立脇に向け、しっかりとお辞儀した。
「かなちゃん……」
ゆいがぽつりと呟き、あずさは無言で、優しい微笑みを浮かべていた。
その場にいた全員の意識が立脇へと向けられ、彼女はしばらく言葉を失いぱくぱくと口を喘がせていたが、
「立脇先生?」
とどめとばかりに優しい笑みを浮かべた内田に促され、
「あ、あ……あ、ああなた方に言われなくても、そのつもりです!」
頬を染めながら負け惜しみのようにそう言って、ついっと盛大に顔を背けた。
折れた。
子供達から再度、先程にも負けない歓声が上がった。
...To be Continued...
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ponsun URL 2011年11月24日(Thu)06時59分 編集・削除
平身低頭のあずささん
すごいリーダシップですね
ありがとうございます