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■第3章:ちょっとだけファンタジー ―― 第12話
***
「んーっ、あっしたはーっ、日曜っだーっ!」
「だな」
歩く拓実の隣。ゆいがくしゃっとしかめた笑みで背伸びをひとつ。
部活を終えた二人は、揃って自宅への帰途についていた。
入学して約二週間。さすがにこの通学ルートにも慣れたと言っていい。
「ねぇねぇ、たっくんどう? 部活……」
夕日と呼んでも差し支えないほど傾いた西日に目を細めていた拓実に、ゆいが尋ねた。
口調こそいつもの邪気のないものだが、語尾が萎んでいるところをみると、まだ無理矢理引きずり込んだことを気に病んでいるらしい。
「んー、まあ、悪くねえ」
だが、拓実がぶっきらぼうにそう答えると、ゆいはぱぁっと表情を明るくした。
つられてアホ毛もぴこぴこと揺れている。
「そういうお前はどうなんだよ」
「うん、すっごいたのしい!」
「そっか……」
下手にツッコまれる前に拓実は問い返し、満面の笑みを返してきたゆいに不思議な充足感を覚えた。
「でも部長ってほんといろんなこと知ってるよねー」
「だな……」
ふと、ゆいが感心した面持ちで、人差し指を自分の顎に添えた。
「今までゆいが気付かなかったこともいっぱい教えてくれるし、尊敬しちゃうなぁー」
「そうだな……」
「ゆいもあんなふうになりたいなぁ……どうしたらあんなに物知りになれるのかなぁ」
「さあな……少なくともゆいの記憶力じゃ無理だろ」
「えーっ!? そんな事ないよ絶対! きっと! たぶん。おそらく、あるいは……うぅ」
軽い揶揄に、ゆいは律儀に階段を降る感じでトーンダウンしていった。
自覚があるのは拓実も知っていたが、わかりやすい奴だ、と改めて認識。
(どうしたら、か……)
アングラへと地盤沈下してゆく幼馴染みを横目に見ながら、内心で呟いていた。
(そうだな……今度また、直接聞いてみよう)
そんなの勉強しかあるまい、とでも言われそうな気もしたが、しかし彼女は決して答えを惜しんだり、はぐらかしたりしないという確信もあった。
実際、あずさのその姿勢こそが、拓実に信頼と安心を抱かせていた。
「うぅ……ゆいも……ゆいも部長みたいになって、たっくんを……うぅぅ」
隣ではゆいが何やらぶつぶつと呟いていたが、よく聞こえない。
とりあえず不気味なので意識の外に追いやって、拓実は再び西日に目を細めた。
(よし、それなら月曜を待つ、か)
あずさに会えるのは明後日、月曜だ。
そう自覚すると、不意に心が弾んだ。
月曜を楽しみだと思える土曜なんて、そういえば初めての経験かもしれない。
……と、拓実はこの時思っていたのだが。
***
「ん……?」
日曜。駅前までお目当ての雑誌を探して一人、本屋巡りに出かけた帰り道。
時刻はもうじき夕方と言ってもいい頃合。
自宅近くの公園の前を通りかかった拓実は、そこで思いがけない顔を見つけた。
(あれは……部長!?)
公園の隅に並んだ鉄棒。その内の一つを身体の前で握り佇んでいたシックな生成りのワンピース姿は、拓実が見ている前でぴょんと一跳ね。両腕を突っ張って棒上支持の姿勢を取った。
まさか今日お目にかかれるとは想像だにしなかったその姿に、拓実は湧き上がる驚きと疑問と困惑とを抑えきれないまま、気がつけば彼女へを向けて歩を進めていた。
「……部長」
「えっ……陣内っ!?」
近寄りつつ声を掛けると、あずさは珍しく慌てた様子で肩を震わせ、若干わたわたとしながら砂の地面に降り立った。
「どうしたんですかこんな所で」
傍まで歩み寄った拓実は、何気なくあずさを見つめながら尋ねた。
初めて見る私服の彼女は、制服のときの毅然とした雰囲気とはまるで違う。
一言でいえば素朴で清楚な、どことなく手弱女めいた印象を抱かせ、知らず胸の鼓動が早まった。
当の彼女は、やや落ち着きを欠いたように瞳を揺らし、
「じ、陣内こそどうしたんだ」
これまた珍しく答えをはぐらかした。
「家、この近くなもんで」
「そ、そうか……そうか、そうだよな」
そんなあずさの挙動に、拓実は内心で首を傾げた。
だがそれも束の間。
「先輩もこの近くなんですか?」
「いや、私は隣町だ。だがこの辺りには昔一時住んでいた事がある。今日はたまたま用事があっただけだ」
いつの間にやらあずさは普段の調子を取り戻していた。
何かマズいタイミングで声を掛けてしまったんだろうか、と微妙に心配していた拓実も、おかげで密かに一安心。
「で、何してたんです?」
「ああ、ちょっと懐かしくてな」
「この公園がですか?」
言いながら、拓実はこれまでになく強い既視感に見舞われた。
――この公園、そしてこの鉄棒は、かつて幼かった拓実が日々逆上がりの特訓に明け暮れた場所。
そして……名も知らぬ自称魔法少女に出会った場所でもあった。
...To be Continued...
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ponsun URL 2011年12月16日(Fri)07時14分 編集・削除
ゆいちゃんの底抜けの明るさ
いいですねぇ
心が、和らいできます
ありがとうございます