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■第4章:最後のありがとう ―― 第8話
「げほっ、ごっ、ごほっ……ぶ、部長!? それってどういう……」
「どうもこうも、そのままの意味だ。君達の、結婚式だ」
あからさまに悪戯な色を瞳に浮かべ、あずさはダメ押し。聞き間違いでもなかったらしい。
どうでもいいが、ゆいは結婚式発言にうろたえた様子はない。
むしろ頬を桜色にしてにへらとだらしない笑みを向けてくるアホ毛が拓実にはちょっと憎たらしい。
「おお、なんと……」
花江さんは驚きと歓喜の表情であずさを、そして拓実とゆいを見つめた。
その様子に満足したあずさは高遠へ向くと、あらかじめ示し合わせていたかのような調子でこう提案。
「それで、その式場としてここを使わせて頂きたいのですが、よろしいですか、高遠さん?」
ぶーっ、と拓実はさっきより盛大に吹いた。
***
週明けから、ニセ結婚式の準備が始まった。
偽物とはいえ結婚式は結婚式、世の乙女にとって夢のセレモニーである。
おかげで女子メンバーの気合の入れようは半端ではない。
中でも、少しでも式を本格的なものに近づけようというあずさのこだわりは並々ならぬものがあった。
「ほのか、どうだ? 花嫁衣裳の仕立て直しは間に合いそうか?」
「は、はい……でもあずさ先輩、本当にいいんですか? あんな素敵なもの……」
「うむ。どうせ我が家で眠っていたものだ。そうそう使う機会があるわけでもないのだから、こういう時に使ってやらねば可哀相だろう? 私が使うのもいつになるかわからんのだしな」
あっけらかんと言ってのけたあずさに、ほのかはそこはかとなく苦笑。
極力創意工夫で物事を乗り切るために、普段は部活動で身銭を切るのを潔しとしないあずさだが、今回ばかりは違った。
直接金銭的なものではないが、彼女は実家から母が使ったというウェディングドレスと白無垢を持参、ゆいの体型に合わせてほのかが仕立て直す事になった。
デザインといい生地の風合いや手触りといい、いかにも高級品な匂いがぷんぷんとしたが、誰一人としてあずさに価格を訊こうという勇者はいなかった。
一方の花婿衣装も、拓実父所有の羽織袴とタキシードを借りる事になった。
ここに来てなお計画への協力を微妙に渋っていた拓実だが、あずさやゆいの強烈極まりないプレッシャーを受けては素直に従わざるを得ない。
そもそも本計画はゆいの口から拓実母へだだ漏れだ。母も随分と乗り気で、逃げ場はない。
料理の類は、衛生・栄養管理の面から会場である福楽寿園へは持ち込めない。
だがその辺は、高遠がレクリエーションの一環という名目で積極的に協力してくれる事になっていた。
他にも花江さんを除いた入所者への事情説明など、根回しをしておいてくれるらしい。
「さすがに引出物までは用意できんのが口惜しいな」
「いや、そこまでこだわらなくても……」
大真面目に腕組みして眉をひそめるあずさに、拓実はもしかして婚姻届まで用意してくるんじゃ、とこっそり引き気味。
「ほーらたっくん、よそみしないっ」
「へいへい……」
そして今回の主役である新郎新婦こと拓実とゆいは、進一と共にパソコンの前で式の進行スケジュールを練っていた。
「問題はやっぱりお色直しにどれくらい時間がかかるかだね。衣装が仕上がって、実際にリハーサルしてみないと何とも言えないな」
マウスをぐりぐり操って、あーでもないこーでもないと進行表を弄る進一が、悩ましげに軽く頬杖を突いた。
「和洋どちらか片方の衣装だけなら、ずっと予定も組みやすいんだけどね」
「だっ、だめですよっ! せっかく部長が持ってきてくれたんですからっ! 両方ともお披露目しなきゃですよっ!」
「んなこと言って、ホントは自分が着たいだけなんだろーが」
やけに力んだゆいの反論に、拓実は少々呆れ顔でツッコミ。
「う……ま、まぁ、たしかにそれもあるけど……」
ゆいは多少はバツが悪そうな顔を見せたが、すぐにふっ、と切なげに目を伏せて、
「おばあちゃんに……見てもらいたいんだもん……」
...To be Continued...
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