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■エピローグ:そして、魔法少女が。
「ほんっとーにありがとーう陣内くん、おかげで助かったわー」
拓実が修理の終わったフードプロセッサーを届けに料理部を尋ねると、部長さんの熱烈な歓迎を受けた。
「あ、いえ……あ、ありがとうございます」
「そういえばあずさっちに聞いたわよー? これ陣内くんが直したんだってね、すごいわー」
パワフリャな勢いについたじろぐ。ぎこちなく礼を返した拓実に、部長さんはさも感心そうに笑ってみせた。
そう。機械修理の経験などほぼ皆無だった拓実は、目下進一の指導の下、新しい技術を身につける試みに挑戦している。これはその成果第一号だ。
「ええ、まあ、その……はい」
相変わらずな部長さんのノリに圧倒されつつ、つい照れ臭そうに肯定。
「くぅーかわいいー! やっぱ年下の男の子ってさいこーだわ~」
そんな反応に、部長さんは何やら無上の悦楽に身悶えているご様子だった。
あれから一週間が過ぎた。
うたいしえあ部はいつも通りに、活動を続けている。
変化したことといえば、まずこの拓実の挑戦がある。
またゆいも同様、ほのかから色々な技術を吸収しようと日々努力を重ねるようになった。
次に、パソコンの横にぽつりとスペースが開いたこと。
グラティアが消えた後、あずさのブローチや部員達のバッジも消滅していた。元々はグラティアの物だったというから、彼の帰還に伴いその手元に戻ったのだろう。
そしてもう一つは、あずさ。
相変わらずの調子で辣腕を振るってはいるが、ふとした時に、窓から遠くの空を眺めている姿を部員達は多く見かけるようになった。
やっぱり何を考えているかは悟らせてもらえないが、誰の事について想いを馳せているのかは明らかだった。皆、口には出さないが。
***
「うむ。では陣内、神原、すまんが戸締まりを頼む」
「はい、お疲れ様です部長」
「おつかれさまでーっす」
普段通りの凛々しい笑みを残して、帰り支度を済ませたあずさは部室を立ち去った。
グラティアがいた頃は、いつも最後まで部室に残っていた。おそらく部室に常置していたグラティアと直接語らう時間を持ちたかったのだ。
だが彼が去って以降、彼女が常に部室の鍵を閉める役を担う必要性はなくなった。
当初はどこか物憂げな色を孕んだ様子で部室を後にしていたが、今しがたの笑顔を見る限りでは随分と慣れたらしい。ある程度心の整理がついたのだろう。
「ねぇ、たっくん……」
最後に残り、部室の軽い片付けと帰り支度を進めていた拓実の背中に、ゆいがぽつりと声をかけた。
「ぐらちゃん……元気かなぁ」
「……まあ、元気でやってるだろ」
答えながら拓実が振り向くと、ゆいはパソコンの脇、ちょうどいつもグラティアがいたスペースに片手を当てつつ、机の上に目を伏せていた。
「いなくなるって……」
それだけ呟いて、ゆいは口をつぐんだ。
だが、彼女がその先に続けたかった言葉は、はっきりと拓実の心に届いていた。
(いなくなるって……やっぱり、さみしいね)
「……俺は、いなくなったりしねえから」
ほぼ無意識に、その言葉は口をついて出ていた。
ゆいは驚いたように目を見開き、顔を上げた。
「たっくん……それって……」
「ご、誤解すんなよ! この先どうなるかなんてそりゃわかんねえし、いつかは離れて行かなきゃならなくなる……かもしれないけど、でも」
口走った台詞を脳内でリフレイン。とはいえ取り消すわけにもいかず咄嗟に赤面しながら拓実は自己フォロー。
しかしその口調は途中から、自然と穏やかなものに変わっていった。
「それまでは、俺がお前の傍にいてやるから。今までみたいに」
いつしか偽りない微笑みを添えて、ゆいを見つめていた。
ゆいはしばらく呆然と、頭の中で拓実の言葉を反芻しているふうだったが、
「うん……ゆいも、たっくんのそばに……いるよ」
柔らかい笑みと僅かな涙を浮かべつつ、ゆっくりと拓実のすぐ前まで歩み寄った。
そして、唐突に彼の胸に顔を埋め、そっと抱きついた。
「! ゆい!?」
「今だけ……少しだけ、こうさせて」
安らぎと切なさの同居したようなゆいの声に……拓実はただ無言で、受け止め続けた。
茜色と夕闇のコントラストに彩られた室内を、優しい空気が満たしていて。
(過去にとどまらないで……今を生き抜いてほしい、か……そうだな、グラティア)
忘れ物を取りに戻ったあずさは部室の外、出入り口脇の壁にもたれてただ、瞳を閉じた。
***
翌朝。
バタんっ、ドタバタバタドタっ……
拓実は何やら騒がしい物音で目が覚めた。
ベッドに横になったまま、何事かと起き抜けの鈍い頭で耳を澄ませば、誰かが怒涛のごとく階段を駆け上がってくる。直後、
「たっくんたっくんたっくんたいへんたいへんたいへんたい!」
勢い良くドアをフルオープン、部屋にダイブインしてきたのは案の定、制服装備の幼馴染様。
その勢いのままベッドのすぐ傍へ仰々しく駆け寄ると、拓実の見上げる前で急停止。今日はきりんさんらしい。
「最後変態になってんぞ」
「そんなのどおっでもいいからっ! これ見てっ!!」
寝起きとは思えない冷静なツッコミもあっさりブレイクスルー。
どうにも興奮度MAXなゆいは、のっそりと上体を起こした拓実に向け、両手に抱えた何かいきなりずいと差し出してきた。
「え……?」
突きつけられた物体に、拓実は目を疑った。
「グラティア……!?」
見覚えがあった。
挑戦的に目つきの悪い、でっぷり太ったナマズのようなヌイグルミ。
背中には体と同じくらいの大きさの群青色した巻貝らしきものを背負っている。
「ざけんなクソガキ。俺様はグラティア二世様だ」
と、驚愕に呼応して、ヌイグルミが突然喋った。
「二世……てことはグラティアの子供? でもグラティアが帰ってからまだ一週間しか……」
「ああ、そいつはきっと俺様の世界とこの世界とで時間軸が違うからだ。軽いタイムスリップみたいなもんか。俺様の世界じゃ親父が王位についてから十六年経ってる。解ったかタコ」
なんだか意味がよく解らずなおも首を傾げる拓実だったが、とにかくこのヌイグルミも魔法の国の王子様なんだろう、とは理解できた。口の悪さも相変わらずで、妙に安心してしまう。
「で……なんで、ゆいがこいつを持ってんだ?」
と、今度はアホかとチョップしたくなるくらいニコニコしっぱなしのゆいに尋ねる。
しかし、
「ケーッ、日記にゃ書いてたがホンモノのトーヘンボクだなこのガキゃ! おいユイ!」
グラティア二世が奇声と共にガタガタ振動した。
拓実が何かを問い返す間もなく、発言を引き継いだゆいが嬉々と口を開いた。
「あのね、昨日ゆいの夢に出てきたの! ゆいがありがとうを集めろだって!」
「……は? ……え、それってつまり、まさか……?」
「うんっ! 今度はゆいがぐらちゃんのパートナーだよっ!」
ほくほく顔で断言され、拓実は唖然となって絶句した。
念押しとばかり、グラティア二世が口を挟む。
「ケッ、前に親父の日記を見てな、うたいしえあ部ってのがいいって書いてあったからわざわざ来てやったんだ。ありがたく思いやがれこのウスラトンカチ」
「グラティア……あいつ俺のこと何て書いたんだ……」
「でね、でね! これも見てよこれもっ!」
恨みがましい拓実の独り言などそっちのけ。ゆいは片手でヌイグルミを抱え直すと、もう片方の手をポケットに突っ込み、取り出した物を喜色満面で拓実に見せつけた。
「これ、って……」
ゆいの広げた手のひらに転がったのは、上品な白金色に煌くコイン大のブローチ。
そして幾つかの更に小さなバッジ。
円形に象られたそれらの表面に刻まれていたのは、見慣れた入れ子の五芒星。
「は……はは、ははは……」
朝っぱらから矢継ぎ早に降りかかった新たなる始まり。その証。
呆然としたまま、それでも事態を飲み込んだ拓実の胸に、次第に笑いがこみ上げてきた。
「たっくん?」
「はっ、はははっ、あはははははっ!」
不思議そうな顔をするゆいに構わず、拓実はベッドの上でひとしきり笑い転げた。
楽しみだ。
あずさがどんな顔をするのか楽しみで仕方ない。
ゆいが、そして自分がこれから何を経験してゆくのか、拓実には楽しみでたまらない。
「あははは……そ、それにしても……」
と、ひとまず落ち着いた拓実は。
新しい肩書きを手にした幼馴染の顔をじっと見つめて、可笑しげに呟いた。
「今度は、ゆいが魔法少女かよ」
その言葉にきょとんとした後、
ゆいは弾けるような笑みと共に、うんっ、と大きくアホ毛を揺らした。
~Fin.
はっはっは 2012年12月27日(Thu)21時20分 編集・削除
ぶはははっ!!やられたw
新たな魔法少女誕生で終わるんやwwww
そういや、このブログ以外にもネットに顔だしてるん??
そうやったら、他でもちょっと宣伝してみたら?・・・って思うんやけどwおもしろかったよ~♪♪
携帯の記事の、「ミク色」ってのにワロたw