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うたいしこと。(17) :第2章-10

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 続き
 


■第2章:新入部員初任務 ―― 第10話




 怪訝に見つめる一同の前であずさは何やらコールし、ややあって、

「もしもし、藤原か? 今手は空いているか。ああ、すまんが至急原稿作成を頼む。内容は犬の里親募集だ。写真やデータはメールで送る。あと場外掲示許可書も用意しておいてくれ」

 相手は進一だったようだ。
 一通り指示を飛ばすとあずさは通話を切り、今度はかなに言って再び小屋を開けてもらった。
 犬の写真を撮るつもりなのだろう。

「あの、部長……」

「なんだ、陣内」

 アングルを探りながらつぶらな瞳の子犬へとレンズを向けるあずさに、拓実が背後から尋ねた。
 めけぇー、と謎の鳴き声じみたシャッター音が鳴り、子犬がちょっと怯えた。

「うちの高校って、携帯持ってきていいんですか?」

「ああ、授業時間中の使用は厳禁だがな」

「そうだったんだ……ゆいとたっくんの中学はいまどき持ってるだけで没収だったもんねぇー」

「そうか。ならせっかくだから明日にでも君達の携帯を持ってくるといい。番号とアドレスを交換しよう。何かと必要になるだろうしな」

 あずさが言い終わると同時にまた、めけぇー、と鳴った。
 そんなこんなで撮影した写真も、速やかに送信完了。

「藤原はパソコンの操作や修理、改造などもお手の物でな、他の機械の類にも大概強い。頼もしい奴だ」

「へぇ……」

 携帯を畳みながら、あずさは我が事のように誇らしく語った。
 部員への信頼が滲み出たその語り口に、拓実の胸には少し複雑なものが去来した。

(俺には、そんな風に誰かに誇ってもらえるものが、あるんだろうか……) 

「よし、一旦部室に戻るぞ。藤原がビラ原稿を作ってくれる」

 と、そんな拓実の心情を断ち切るように、あずさが一同の顔を凛と見渡して告げた。

「せっかくだ、よかったら相沢さんも来るといい」

「え、はい、その、いいんです……か?」

「ああ、もちろんだ。依頼人には我々が何をするのか見届ける権利がある。それに高校の中にも興味はあるだろう?」

「あ、はい……」

 あずさの言葉にかなはおずおずと、しかし正直に頷いた。

「うむ。では神原、相沢さんの案内を頼む」

「わっかりましたーっ。さ、かなちゃん、ゆいといっしょにいこっ」

「は、はい、よろしくおねがいします……」

 そうしてフレンドリーに差し出したゆいの手をかなが取ると、連れ立って歩き出した。
 ゆいはアホ毛をふわふわ揺らしつつ、早速かなへと何やら嬉しそうに話しかけている。
 性格は真逆っぽいが、こうして見るとまるで姉妹だ。
 実際、ゆいも妹ができたような心境なのだろう、とその背中を見つめながら拓実は察していた。

「さあ、我々も行くぞ、陣内」

「あ、はい」

 と、次いで歩き始めたあずさに背中越しに促され、慌てて拓実もその後を追った。



    ***



 控えめながらも興味津々のかなを伴って部室に着くと、何やら機械の動作音が聞こえた。

「あ、部長。今丁度できました。っと、こんな感じでどうですか」

 そう言ってパソコンの前に座っていた藤原がプリンターから吐き出された紙を取り、歩み寄ってきたあずさに手渡した。どうやらさっきの音はプリンターの駆動音だったらしい。
 あずさはその原稿にざっと目を通し、

「うむ、ありがとう藤原。さすが、早い上に心得ているな」

「いえ、テンプレートもありますし、細かいデザインは弓削さんですよ。僕はただ入力しただけです」

「そ、そんな、藤原くん……」

「うむ。ほのかもありがとう」

 二年生二人の顔を順番に見据えて労った。

「は、はい、ありがとうございます……あの、それであずさ先輩。そちらの子は……」

 と、ほのかがふと、ゆいに手を引かれて部室にやってきていたかなに目をやった。

「ああ、こちらが今回の依頼人、相沢かなさんだ。相沢さん、この二人は部員の藤原進一と弓削ほのかだ」

 あずさが互いに紹介すると、かなと二年生コンビは挨拶を交わした。
 特にほのかは相変わらず控えめで物腰柔らかいものだから、雰囲気といい仕草といい妙にかなと被る。
 ゆいよりもむしろこのカップリングの方が姉妹っぽい。

「で、部長、これからどうするんです?」

 会話が一段落ついたのを見計らって、拓実が口を開いた。

「そもそもビラを配るにしても、そんな大量に用意できるんですか?」

「あ、そうだよね、プリンター一台じゃ遅いし、インク代だって高いし、コピーするのだってお金が……」

 ゆいも賛同してアホ毛を萎れさせた。
 拓実はパソコン所有のこの幼馴染に、プリンターのインクは量の割に結構高くて困る、と何度かぼやかれた事がある。

「うむ。印刷屋に頼んでも期日が明後日では納期までのタイムロスが痛い。君達に身銭を切らせるつもりはないが、かといって部費も潤沢ではない。このパソコンなども壊れて捨てられていたのを藤原がレストアしたものだしな。しかし、思い出したまえ」

 あずさは一つ首肯してそう言うと、すっと黒板を指差した。

 その先には、彼女が黒板に貼り付けたままにしておいた一枚の訓示が。

「六訓その二、できない事はしない。逆に言えば、できる事をしろということだ。言い換えれば使える物は存分に活用する……さて、君達は今、どこにいる?」

 問いかけ、ハテナを浮かべた拓実とゆいを見やって意味ありげに微笑むと、しかしあずさは返答を待たずにほのかへと向き直り、

「ほのか、忙しいところすまんが、しばらく相沢さんの面倒を見ていてくれ。陣内と神原は私について来たまえ」

「え、かなちゃんは連れて行かないんですか?」

「ああ、今から行く場所にはさすがに無理があるのでな」

 ゆいの疑問にそう答え、手にした原稿を指先でぴらっと翻した。



 ...To be Continued...

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コメント一覧

ponsun URL 2011年11月19日(Sat)05時53分 編集・削除

できない事はしない。逆に言えば、できる事をしろ
ということだ。言い換えれば使える物は存分に活用
する……さて、君達は今、どこにいる?

少し考えてしまいました

次の展開ですね



ありがとうございます

せらつ@中の人 2011年11月19日(Sat)07時32分 編集・削除

>ponsunさん
 名探偵あずさの活躍が始まります(ぇ

 ごめんなさいちょっと嘘です(ぇー

 ありがとうございます^^

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