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うたいしこと。(18) :第2章-11

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 続き
 



■第2章:新入部員初任務 ―― 第11話






 コンコン。

「入りたまえ」

 ノックに応え、ドアの向こうから年配の声がした。

「失礼します」

 あずさは静かにドアを開け、その部屋へと淀みなく進み入った。

 後に続く拓実とゆいは、ぎくしゃくと妙に緊張している。
 校内のどの部屋とも異なる、高級そうな調度が適度に揃えられた室内にいたのは、二人。
 どちらも年配の男性だった。正面のデスクには恰幅の良い好々爺然とした人物が座り、その傍に厳粛そうなやや痩身の人影が佇んであずさ達を睨めている。

「これは教頭先生も。丁度良かったです」

「おお、鳳凰院君か。ほっほ、よく来たのう。おや、後ろの君たちは新入生じゃの?」

「はい、今年の新入部員です。校長先生」

 自然に、しかし堂々とあずさは答えた。
 そう、ここは校長室。二人の男性は、校長と教頭だ。

「一年二組の陣内と神原です。以後お見知り置きを。ほら、二人とも」

 まさか入学二日目で校長室訪問など予想だにしていなかった。
 あずさに促された拓実は、ぎこちないながらもどうにか挨拶。
 揃ってお辞儀したゆいのアホ毛も、慎み深げにへにゃりと折れている。
 そんな初々しい二人を温和そうな校長は慈しむように眺め、うんうんと頷くと、

「それで鳳凰院君。今日は我々にいったい何の用かね?」

 今度は教頭がやや急かすように口を開いた。

「はい。では早速ですが校長、校内各所への掲示領域外掲示許可を頂きたく。これが紙面と、申請書です」

「ほっほっほ、いつもながら準備が良いのう。どれどれ」

 あずさは持っていたクリアファイルから取り出した紙を二枚、校長のデスクに並べた。
 拓実とゆいが固唾をのむ中、校長はふむふむと頷きながらそれらに目を通すと、

「よろしい、許可しましょう」

 拍子抜けするほどあっさりとそれらの書類にサインした。

「しかし子犬とは、ほほっ、かわいいのう。家に犬が居なければわしが飼いたいくらいじゃが、生憎とのう」

「いえ、こうして許可を頂けただけでも充分です。ありがとうございます。それと教頭先生、このビラ複製のために職員室のコピー機の使用許可も頂きたいのですが」

「ああ、構わんが、学年主任の本田先生にも話を通しなさい。枚数にもよるからな。まだ職員室にいるはずだ」

「わかりました。ありがとうございます」

 まさにとんとん拍子だった。
 あまりの進行の速さに、拓実とゆいは揃って呆気に取られ、お互いの顔を見やって目をぱちくりさせた。



 校長室を退出した三人は、職員室へ向け廊下を歩く。

「……すごいですね、部長は」

 ゆいと同じく、緊張がとけてほっと一息の拓実は、前を行くあずさにぽつりと漏らした。

「うん? 私は別に特別な事をしたわけではないぞ、陣内」

 肩越しに軽く振り向いて、あずさは事も無げにそう言った。

「私がした事は、相沢さんの声を聞き、君達や藤原、ほのか、そして先生方の力を借り……つまり受け取って、借りて、借りて、借りて……そこに私自身の産物はない。ただ、私は幸いにして触れることのできたそれらをありがたく使わせてもらっているだけだ」

「それでも、校長にあんな風に直接要望を通せるなんて、普通そう簡単には……」

 しかし、拓実にはほとんど謙遜にしか聞こえない。
 ゆいも、表情からしてその点同じ感想を抱いているらしかった。

「まあ、校長先生には部を立ち上げる時もお世話になったし、そもそも日頃交流があるからこそだ。言ったろう、人脈は大事だと」

 言い終わると同時に、あずさは職員室のドアに手をかけていた。



 学年主任との交渉も、実にスムーズだった。

「全部で何枚だ」

「多ければ多いほどありがたいのですが」

「なら五十枚までだ」

「なんとか百枚にならないでしょうか」

「む、まあいいだろう。鳳凰院なら無駄な事には使わんだろうからな」

 これが、コピーを願い出たあずさと本田先生とのやりとりである。いかにあずさが教職員の間でも信用されているかがうかがえた。
 そうしてつつがなくコピーを開始した拓実達だったが、

「あれ? ねぇたっくん。これどういうことかな?」

 刷り上ってゆくビラを一枚手に取ったゆいが、ある事に気付いた。

「ん? 『本ビラは当学校長の許可を得てこの場所に掲示しています』……何ですこれ?」

 ビラの下端、ゆいが指差したその文面に目を通し、拓実も怪訝そうな顔をしてあずさに尋ねた。
 そこには更に、許可責任者として校長の署名まである。

「ああ、さっき校長先生にもらったのは掲示領域外掲示許可、つまり掲示板以外の場所へビラを貼る許可だからな。こうして許可を得て貼ったのだと署名つきで書いておけば事情を知らない他の先生方に剥される心配もない」

 そう言えば、校長は申請書だけでなくビラの原稿にまで何やらサインしていたな、と思い返して納得の拓実。
 と、四十枚近く刷ったところで、コピー機が止まった。

「よし、あとはこれをコピーしてくれ。隣の小中学校への配布用だ。手配りには足りないが、人の集まる所に貼る分には合計百枚でも充分だからな」

 そうしてあずさがクリアファイルから取り出したのは、いつの間にか用意したのか、許可表示なしバージョンの原稿。
 何から何まで用意周到だった。


 ...To be Continued...

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コメント一覧

ponsun URL 2011年11月20日(Sun)07時59分 編集・削除

「私がした事は、相沢さんの声を聞き、君達や藤原、
ほのか、そして先生方の力を借り……つまり受け取っ
て、借りて、借りて、借りて……そこに私自身の産物
はない。ただ、私は幸いにして触れることのできた
それらをありがたく使わせてもらっているだけだ」


私自身の産物はない、と言い切るあずささんの謙虚さ
とあたたかさに好感をおぼえます

そして、宇宙エネルギーに委ねて、お任せしているさま
が窺われるような気がいたします


ありがとうございます

せらつ@中の人 2011年11月21日(Mon)21時22分 編集・削除

>ponsunさん
 それにしてもはっきりいって高校生とは思えませんですはい(ぇー
 ありがとうございます^^

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