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うたいしこと。(41) :第3章-18

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 続き
 



■第3章:ちょっとだけファンタジー ―― 第18話
 



    ***



 それから、拓実はあずさと連れ立って学校へと戻った。
 途中特に何かを話したわけでもなかったが、ずっと優しい空気が二人の間を流れていた。
 校内ではあずさが私服姿を先生に咎められもしたが、日頃の素行の良さのせいか、軽い注意で済んだ。

 そうして部室。
 既に他の三人は戻っていて、いきなり姿を消した拓実が休みのはずの部長を連れて帰ってきた事に皆一様に驚いた表情をした。
 だが、

「すまない、皆にこれから、どうしても話しておきたい事がある」

 そう切り出したあずさが胸に抱えた、今まで単なるマスコットだとしか思っていなかったヌイグルミがいきなり喋り出した事で、更なる驚きに見舞われた。

 信じてくれなくても構わない、と前置きして、彼女が告白した内容は、こうだった。



 そのヌイグルミ、グラティアの正体は、この地球上とは全く違う世界――便宜上、あずさは魔法の国と呼んだ――の王子様、らしい。

 魔法の国では王位継承者が一定の年齢になると、正式な継承権を得るために試練が課されるそうだ。
 その試練というのが、魔法でヌイグルミ……要は不自由な姿に変えさせられた上で、この世界に渡り人間を一名パートナーに選び、協力して一定量の『王威なる力』を集める、というものだった。

「おういなるちから?」

「要は、感謝の心、ありがとうという言葉そのものだな。民衆の上に立つ資格があるかどうか、それを集める事で示す、という趣旨らしい」

 首を傾げたゆいに、あずさは整然と答えた。ゆいは話へと無邪気に没入しているようだ。



 グラティア達が試練のため今の姿になる際、更なる枷がはめられるのだという。

 一つは、強制的に口調が乱暴で無礼なものになってしまう事。
 もう一つは個人的に思った事や感じた事、要は主観的な感想を言おうとすると、それとは正反対の言葉を喋ってしまうというものだった。

 客観的な事実や予測、あるいは格言などを引用するぶんには問題ないそうだが、とにかくそのためにこの世界の人間との円滑なコミュニケーションは困難なものとなる。
 だが逆に言えば、パートナーは必然的に、粗野で天邪鬼な言動の裏にある本質を見抜ける者が選ばれる。

 グラティアはこの世界に渡る際、無数の人々の夢を渡り、そんな素養を持つ人間を探し続けた。
 その結果、鳳凰院あずさという人物にめぐり合ったらしい。

「……このブローチにはな、これまで七年以上かけて集めてきた、ありがとうという言葉、その想いが力となって蓄積されている。私が君達に預けたバッジも、元はグラティアのものだ。要は子機として、受け取ったありがとうをこのブローチへと転送する役目を持っている」

 グラティアを片手で抱いたあずさは、もう片方の手に白金の五芒星を乗せ、皆の目に触れるように前へと掲げた。

「忘れもしない……私がグラティアと出会ったのは、十歳の誕生日、小学四年の時だった。その頃私は実の親ではなく義理の父母に育てられていてな、その家も色々ごたごたがあって、私の肩身は正直狭かった」

 ふと、伏し目がちになったあずさは、ブローチをしまうと両手でグラティアを抱え直し、自身の過去を語り始めた。そして拓実とゆいへ視線を向ける。

「陣内、神原。以前私は君達に、職業とは手段にすぎないこと、手段と目的を取り違えた人間が多い事を話したな。私の育ての親も、まさにそんな感じだった。特に父は自己の人生に重要感を見出せず、事あるごとに母と衝突し、家の雰囲気は重く、どちらかというと荒れていた」

 その瞳に感情らしきものは窺えない。
 それが余計に、彼女が言葉以上の暗い内実を味わってきた事を匂わせた。

「今思えば食事を出してもらえて学校にも行かせてもらっただけで充分幸せだったのだがな、その頃の私は何と言うか、そんな境遇が嫌で自分の心を閉ざしてばかりの、本当に不貞腐れてばかりの後ろ向きな子供だった」

 ぽつぽつと、どこか悔悟するような口調のまま、あずさは胸元の王子様へと視線を落とした。

「グラティアが現れたのは本当に突然だった。いきなり夢の中に出てきて一方的に説明した後、私にありがとうを集めろと。そして目が覚めたら枕元に彼がいた。具体的に私の何が彼のお眼鏡に適ったのかは未だに解らんが……まあ、そんな経緯で私が彼のパートナーに選ばれた」

 わずかに苦笑めいて、あずさは顔を上げた。
 進一も、ほのかも、ただ無言で尊敬する先輩の非現実的な独白に耳を傾けていた。

「しかし最初の一年は全く成果が得られなかった。ありがとうを集める……具体的に何をどうすればいいのか、本当にわからなかったのだ。すぐ傍にいくらでも転がってたはずなのにな」

 そしてあずさは、また目を伏せた。淡々と、ただ事実のみを語る口振りで。

「……一年経った頃、育ての両親が他界した。葬儀の時もまるで現実感がなくてな。その日、私は住み慣れた町をあてどなく歩いた。だがそこで私は……ある少年に出会ったのだ」


 ...To be Continued...

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