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■第4章:最後のありがとう ―― 第1話
「ああそうだ。皆、次の日曜日は予定を空けておいてくれ」
あずさが突然そんな事を言い出したのは、明けて火曜の帰り際だった。
「日曜? 部長、何かあるんですか?」
つつがなく部活動を終えて帰り支度を進めていた部員一同、手を止めて注目。間髪入れずに拓実が尋ねた。
「うむ、陣内。今年度初の遠征活動だ」
「遠征?」
「そうだ。時々、我が校周辺から離れて活動を行うのだ。やはり効率的にありがとうを集めるためには、ある程度の知名度も必要なのでな。一種の宣伝も兼ねる大事な活動だ」
いつもの調子でうむうむと頷きながら、あずさは新入り二名向けに解説。
さっきまでグラティアとお喋りしていたゆいも、口を結んでちゃんと耳を傾けている。
「えっと、それで、一体どこに行くんです?」
「今回は老人ホームに訪問する。ああ、ちなみに慰問という言葉もあるが、これは災害や病気、要は苦しんでいる人を慰めるという意味だからな。老人ホームにいる方々は、決して全員が全員そんな風に苦しんで不幸を感じているわけではない。むしろ悠々自適に世を謳歌している方も多い。だからあまり慰問とは言わない方がいいだろうな。そもそも病院ではなく、住む場所なのだ。陣内も今の住処にいること自体が不幸なのだと言われたくはないだろう?」
「まぁ、それは確かに……で、訪問して何をするんですか?」
長い補足に内心でちょっとだけ苦笑しつつ、拓実はなおも問う。
するとあずさは柳眉を微かに動かし、意外そうな目で拓実を見つめた。
「ん? 我が部の領分を忘れたか? まあ平たく言えば手伝いやレクリエーションといった所だな。例えば藤原はエンジニアスキルを活かして家電の修理やメンテナンス、使い方のレクチャーをするし、弓削はいろいろ手芸小物を作って配ったり、あと絵心もあるから即興で似顔絵を描いたりな。陣内、神原、君達は何か自分で特技と呼べるものはあるか?」
と、言いつつあずさは拓実とゆいを交互に見やった。
そこはかとなく期待に満ちた目で。
「特技ですか……えっと、うーん」
「ゆいは歌とかダンスなら得意ですっ。たっくん実はギター弾けるんですよっ!」
思わず口ごもった拓実を差し置いて、ゆいが元気よく挙手。
当然拓実は焦ってゆいを睨み、
「お、おい、ゆいっ。俺はそんな大したもんじゃ――」
「大したものではないことはないぞ陣内。腕前はどうあれ、弾けないと弾けるとでは大違いだ。ならば……そうだな、私はピアノなら多少の心得があるから、三人で入所者の方々に懐かしの歌でも披露するのはどうだ」
「ライブ!? はいっっ! それやりたいっ!」
「ちょ!?」
トントン拍子に話が進む。拓実の意向は一切無視で、あずさとゆいが嬉々としてプランを膨らませてゆく。
入部の時の顛末が思い出される巻き込まれっぷりだった。
「機材は先方や他の部に貸出しを要請しよう。ギターは持っているか?」
「はいっ、たっくんが持ってますっ」
「待てゆい、俺はまだやるとは……」
「よし、決まりだな。では選曲や楽譜は私に任せてくれたまえ。明日には揃えてこよう」
鶴の一声。そういや部長は鳥に例えれば鶴だな。名前は鳳凰だけど。今俺上手い事考えた。
などと頭の片隅で思いながらも、拓実はあうあうあうあう……と力なく最後の抵抗。
「あの、俺の意思はどこに……」
「あはは、部長も結構強引だけど、神原さんも負けてないね。ま、頑張れ陣内君」
「そんな藤原先輩、ヒトゴトだと思って……」
側面からの奇襲。
トドメを刺され、爽やかスマイルの進一をちょっと恨めしげに見やると、拓実はがっくりうなだれた。
...To be Continued...
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sarasa 2012年06月05日(Tue)23時00分 編集・削除
そうだ、ありがとうを集める部のはなしだった!
忘れちゃってたおうー^^