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うたいしこと。(52) :第4章-10

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 続き
 


■第4章:最後のありがとう ―― 第10話


    ***


「うわぁー、これを弓削先輩が作ったんですかっ!? すっごーい!」

 放課後。
 部室でほのかが机の上に出した物に、ゆいの瞳がキラキラしていた。
 それは、シンプルなシルバーのペアリング。

「でもこんなのどうやって作ったんですかっ?」

「ふふ、銀粘土っていうのがあって、形を造ってから焼くとシルバーアクセサリーになるの。その、結婚指輪にちょうどいいと思って」

「ふむ、さすがはほのかだな。素晴らしい出来栄えだ」

 ほのかの説明に、あずさも横から覗きこんで感心の面持ち。 

「えっと、多分サイズは大丈夫だと思いますけど、とりあえず試しにつけてみて?」

「あ、はいっ! ……たっくんっ、こっちきてこっちきてっ」

 と、ゆいに急かすように手招きされ、拓実は何事かと思いつつ女性陣の元へ。

「はいっ、たっくんお願い」

 と、指輪を一つ手渡された。
 何がお願いなのか要領を得られずきょとんとした拓実に、ゆいはずいっと左手を差し出してきた。

「ほらほら、たっくんっ」

「……何がしたいんだ?」

「何って、ゆびわっ! 指輪交換するのっ!」

 ちょっと頬を膨らませたゆいの言葉で、拓実はやっと気付いた。
 あずさとほのかは微妙にくすくす、笑いを堪えている。

「っつーかサイズ確かめるだけだろが、自分でつけやがれ」

「だーめっ! 最初にたっくんにつけてもらうから意味があるのっ!」

「……俺は意味わからん」

 溜息込みで辟易しつつ、しかし拓実は観念した。
 この状態の幼馴染様に抵抗は無意味。疲れるだけだと経験で知っている。
 仕方ない、と内心で呟きつつ、ゆいの手を取った。

「あっ……」

 その瞬間、ゆいがぴくっと震えて固まった。
 息を呑み、それまでやいのやいのと騒がしかった唇を引き結んで、拓実の手にした指輪が自分の指先に迫ってくるのを、やけに緊張した表情で凝視している。
 拓実はそんな〝らしくない〟ゆいを怪訝に思いもしたが、やる事は変わらない。
 改めて見ると細く滑らかな指へと、リングを通してゆく。

 銀色の証は、ゆいの左の薬指にぴったりだった。
 拓実が手を離すと、ゆいは上気したような顔で左手の甲を顔の前に掲げ、丁寧に磨き上げられた銀の輝きに無言で見入っていた。

「ふふっ。よかった、サイズも問題ないみたい。似合ってるわよ、神原さん」

 と、何とも言えない奇妙な――拓実にとってはむず痒い空気を断ち切って、ほのかが安堵の笑みを浮かべた。

「式が終わったら、それは神原さんにあげるわね」

「え!? いいんですか、弓削せんぱいっ!?」

「ええ、もちろんよ」

 さっきまでのしおらしさはどこへやら。
 ゆいは、ぱあっと満面に驚きと喜びの混じった表情を弾けさせた。
 そしてほのかに向かって盛大に頭を下げると、

「あ……あ、ありがとうございますっ! たっくんもっ、ありがとうっ!」

「な、なんだよいきなり……俺に礼を言う必要なんて」

「ううんっ! 初めてたっくんにつけてもらった指輪だもんっ! ゆい、一生大切にするっ!」

 愛おしそうに、ゆいは右手で指輪をさする。
 拓実は、そんな大げさな、と内心ちょっと苦笑しつつ……自分でもよくわからない、しかしどこか暖かくて不思議な気持ちで眺めていた。



 ...To be Continued...

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