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■第4章:最後のありがとう ―― 第10話
***
「うわぁー、これを弓削先輩が作ったんですかっ!? すっごーい!」
放課後。
部室でほのかが机の上に出した物に、ゆいの瞳がキラキラしていた。
それは、シンプルなシルバーのペアリング。
「でもこんなのどうやって作ったんですかっ?」
「ふふ、銀粘土っていうのがあって、形を造ってから焼くとシルバーアクセサリーになるの。その、結婚指輪にちょうどいいと思って」
「ふむ、さすがはほのかだな。素晴らしい出来栄えだ」
ほのかの説明に、あずさも横から覗きこんで感心の面持ち。
「えっと、多分サイズは大丈夫だと思いますけど、とりあえず試しにつけてみて?」
「あ、はいっ! ……たっくんっ、こっちきてこっちきてっ」
と、ゆいに急かすように手招きされ、拓実は何事かと思いつつ女性陣の元へ。
「はいっ、たっくんお願い」
と、指輪を一つ手渡された。
何がお願いなのか要領を得られずきょとんとした拓実に、ゆいはずいっと左手を差し出してきた。
「ほらほら、たっくんっ」
「……何がしたいんだ?」
「何って、ゆびわっ! 指輪交換するのっ!」
ちょっと頬を膨らませたゆいの言葉で、拓実はやっと気付いた。
あずさとほのかは微妙にくすくす、笑いを堪えている。
「っつーかサイズ確かめるだけだろが、自分でつけやがれ」
「だーめっ! 最初にたっくんにつけてもらうから意味があるのっ!」
「……俺は意味わからん」
溜息込みで辟易しつつ、しかし拓実は観念した。
この状態の幼馴染様に抵抗は無意味。疲れるだけだと経験で知っている。
仕方ない、と内心で呟きつつ、ゆいの手を取った。
「あっ……」
その瞬間、ゆいがぴくっと震えて固まった。
息を呑み、それまでやいのやいのと騒がしかった唇を引き結んで、拓実の手にした指輪が自分の指先に迫ってくるのを、やけに緊張した表情で凝視している。
拓実はそんな〝らしくない〟ゆいを怪訝に思いもしたが、やる事は変わらない。
改めて見ると細く滑らかな指へと、リングを通してゆく。
銀色の証は、ゆいの左の薬指にぴったりだった。
拓実が手を離すと、ゆいは上気したような顔で左手の甲を顔の前に掲げ、丁寧に磨き上げられた銀の輝きに無言で見入っていた。
「ふふっ。よかった、サイズも問題ないみたい。似合ってるわよ、神原さん」
と、何とも言えない奇妙な――拓実にとってはむず痒い空気を断ち切って、ほのかが安堵の笑みを浮かべた。
「式が終わったら、それは神原さんにあげるわね」
「え!? いいんですか、弓削せんぱいっ!?」
「ええ、もちろんよ」
さっきまでのしおらしさはどこへやら。
ゆいは、ぱあっと満面に驚きと喜びの混じった表情を弾けさせた。
そしてほのかに向かって盛大に頭を下げると、
「あ……あ、ありがとうございますっ! たっくんもっ、ありがとうっ!」
「な、なんだよいきなり……俺に礼を言う必要なんて」
「ううんっ! 初めてたっくんにつけてもらった指輪だもんっ! ゆい、一生大切にするっ!」
愛おしそうに、ゆいは右手で指輪をさする。
拓実は、そんな大げさな、と内心ちょっと苦笑しつつ……自分でもよくわからない、しかしどこか暖かくて不思議な気持ちで眺めていた。
...To be Continued...
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