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うたいしこと。(65) :第4章-23

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 続き
 



■第4章:最後のありがとう ―― 第23話



    ***


「先輩!」

「あずさ先輩!」

 三人が走って部室へ帰りつくと、進一とほのかが慌てた顔で振り返った。
 そこには二年生達と向き合って立つ、もう一人の姿が。

「やあ、何とか間に合ってくれたね。シンイチとホノカには先に挨拶を済ませたよ」

 パソコンの傍。
 ちょうど黒板を背にして立っていた彼は、穏やかに言って、あずさ達へ微笑んだ。

 癖のある、鮮やかな金髪。サファイアのような碧眼。精悍ながら柔和、誠実さと高貴さの滲み出た面の青年。
 中世の王族の正装にも似た場違いな衣装を纏う立ち姿は、児童文学の『幸福な王子』に出てくる輝かしい像がそのまま人間に生まれ変わったかのようだった。

 キラキラと無数の光の粒に――比喩ではなく囲まれ、また全身も淡い白金色の光芒を放っていて、彼が尋常ならざる存在である事は一目瞭然だった。

「それが……君の本当の姿なんだね、グラティア」

「ああ。君にこの姿を見てもらえた事は、僕の最高の喜びだ」

 互いに歩み寄りながら、あずさとグラティアは視線を絡ませた。

 グラティアの言葉はいつもの天邪鬼ではなく、深い慈愛と礼節に満ちた、清き音色。
 それを全神経をもって受けるあずさの瞳は、これまでその場の誰もが見た事もないほどの優しみを湛えて潤み、表情はこの上なく愛惜溢れる……笑顔だった。

「アズサ、君にはいくら感謝しても、感謝しきれない。身勝手な僕の願いを、君は何物をも惜しまず果たさせてくれた。僕にとって自慢の、最高のパートナーだ」

「何を言う……お互い様だグラティア。私は君から、数え切れないほどの大切な事を教えられた。どれひとつとて欠かせぬ、私の宝物……君との絆は、その最たるものだ」

 足掛け七年。二人の間で、今まで何を語り合い、どのような心の触れ合いがあったのか、拓実達には察するに余りある。
 だが、いずれ来るのはわかっていたこの時を迎え、当人達は既に多くを語るまでもないようだった。

 一方で、そうはいかない者もいる。

「やだ……」

 不意に二人の間に割り込んだ、打ちひしがれたような声。

「やだ、こんなのやだよ……花江さんだけじゃなくて、ぐらちゃんまでいなくなっちゃうの? せっかく仲良くなれたのに、そんな……そんなのってないよ!」

 最後は叫ぶように言い放ち、ゆいはいやいやと首を勢いよく振った。
 瞳から幾粒かの涙が跳ね飛び、白金色の光にガラスのように照らされながら宙を舞った。

「泣かないで、ユイ」

 グラティアは静かに、厳かなまでに凛とした所作でゆいの前へと歩み寄ると、光を纏う人差し指でそっと、濡れた目元を拭った。

「君は初めから僕の偽りの言葉に惑わされも憤りもせず、歓喜をもって接してくれた素敵な女性だ。出会う順序が違えば、もしかしたら君が僕のパートナーになっていたかもしれない」

「ぐらちゃん……っ」

 白金の微笑みに、嘘を欠片も感じない。
 ゆいはグラティアの瞳を見つめ、涙を堪えつつ呟いた。

「短い間だったとはいえ、君と語り合えた事はとても幸せだった。僕は決して、君の事を忘れない。いつだって君の幸せを祈ろう。だから君も、僕が立派な王になれるよう祈っていてほしい。遠く離れても、二度と会えなくても、約束を交わそう。僕達が、お互いの心の傍にいられるように……笑って、約束してくれるかい?」

 優しく諭すようにゆっくりと捧げられた青年の誓いに、ゆいはほんの少しだけ、胸の奥に何かを飲み込むような仕草を見せた後、

「……うん、約束。ううん、ぐらちゃんはぜったい、素敵な王さまになるよ。ゆいが保証する!」

 まだ微かに潤む瞳のまま、満面で笑った。

「最高のお墨付きだ。とても心強いよ」

 グラティアも力強い笑顔でひとつ頷き、今度は拓実へと向き直った。



 ...To be Continued...

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