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うたいしこと。(6) :第1章-5

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 続き
 


■第1章:入学、そして入部? ―― 第5話




 勢い良く立ち上がり、挙手と共に高らかに入部宣言をぶちかましたゆいに、拓実は動転した。
 反射的に食って掛かりそうになるが、その前にゆいは爛々ときらめく眼差しを拓実に向けて、

「ほら見て! ゆいちゃんアンテナがびっこびこに反応してるんだよっ! この部に入るべきだって! 今までゆいがやってきたボランティア活動じゃ気付けなかった何かがきっと解るって! たっくんも入るからお願いします部長っ!」

「いや勝手に巻き込むなっつーか頭のてっぺん指差してアンテナとか言われてもワケわかんねーからなゆい!?」

 血気にはやるゆいのアホ毛が何故か不自然に直立していたが、今の拓実には思いっきりどうでもよかった。

「そうか、それはとてもありがたい! よろしく頼む、神原、陣内」

「って、だからさりげなく俺にまで一緒くたに頼まないでくださいよ先輩!? お、俺はまだ――」

「おーじょーぎわがわるいよたっくんっ! それなら体験入部でどう!? ちょっとだけっ! さきっぽだけ入っちゃえっ!!」

 もうなし崩し。
 襟首に掴みかからんばかりの勢いで、ゆいに詰め寄られた。
 こうなるともう、この童顔は頑として聞かない。確か初めてボランティアに誘われた時も、一旦断った途端に泣き出して、首を縦に振ってやるまで始末におえなくなった記憶がある。
 今更ながら側背から二年生コンビの無言のプレッシャーも感じ、拓実はリアルに四面楚歌。

「う……ぐ……」

「たっくん! ね、ねっ、お願いだからっ!」

 上目遣いでにじり寄り、両手を組んで懇願するゆいは既に半泣きだった。
 拓実には、自身を除いた室内の全ての視線(しかも75%は上級生)が容赦なしに集中してくるのがわかる。
 じりじり、じりじり……虫眼鏡で焼かれるような錯覚に陥ってゆき……、

「……わ、かっ……た」

 ついに観念した。
 ぎこちなく首肯してしまった途端、ゆいは一瞬きょとんとしてから、

「やっ……たぁーっ! たっくんと一緒だ、わーいっ!」

 満面に笑みを弾けさせて飛び跳ねた。
 ほとんど幼稚園児のリアクションだが、違和感がないのが末恐ろしい。

 そんな姿に拓実は溜息をついて、ふと思う。
 俺ってこんなに押しに弱かったっけ? アポ商法とかデート商法にでも引っかかったら断れないんじゃ、と。にわかに自分が心配になった。

「よ、よかったぁ……」

 と、その背後で安堵の声が漏れた。今まで沈黙していたメガネの二年、ほのかだ。

「うん。なんとか廃部は免れそうですね、先輩」

 右手から、進一も同じく安心したように爽やかに微笑んだ。
 不意に滑り出た不穏な単語に、拓実は思わずあずさを見つめて、

「え、廃部?」

「ああ、この学校はな、部員が五人在籍していないと部活動として認められんのだ。同好会扱いというやつだな。去年まで所属してもらっていた三年生が一人卒業して、もう一人私と同学年の者も転校してしまったものでな」

 その深刻ぶった語り口は、少しだけわざとらしい。
 じゃあ何か、つまり俺が抜けるとこの部はまた降格の危機ってこと? と、暗に自身の責任重大さ加減を知らされた拓実は、それでも精一杯の抵抗を試みる。

「じゃ、じゃあ俺以外にも新入生を入れれば……」

「私は少数精鋭主義でな。この部は五人がベストなのだ。うむ、今年もいい人材に恵まれた」

 美貌の部長に、力いっぱい清々しく微笑まれた。

 ――その笑顔は、反則的な拘束力だった。

 何それ? じゃあ俺、余計抜けられないじゃん? 体験とか名ばかりじゃね?
 などと、実は根がお人好しな彼の思考は、寄せられる期待という檻の中でぐるぐる回転し、回転し、バターのように溶けて、

「たっくんっ、いっしょにがんばろっっ!」

 嬉しさを隠し切れないゆいの一言がトドメとなって、拓実はがっくりうなだれた。
 勝負あり。

「よし、それでは君達にこれを渡そう。手のひらを出してくれ」

 と、笑顔のまま、あずさはおもむろにスカートのポケットから小さな何かを取り出した。
 二つあるらしい。両手に一つずつ握ったそれらを拓実とゆいに差し出し、二人がそれぞれ広げた掌の上にそっと置いた。

「わ、きれい……これって……」

「……バッジ、ですか?」

 その不可思議な美しさに、拓実とゆいは思わず目を奪われた。
 それは直径2センチくらい。上品な白金色に光を反射する、小さなコインのような物体。
 表面には外周いっぱいに五芒星が一つ刻まれ、更にその中心の五角形にぴったり納まるように逆五芒星が描かれているという、何とも不思議な図柄だった。
 裏側にはピンが付いていて、服などに留められるようだ。

 そして、意外にも見た目よりずしりと重い。
 めっきされた安物ではないと、拓実にも直観できた。

「うたいしえあ部員の証だ。見える所につける必要はないが、できれば常に肌身離さず持っておいてほしい。特に部活動中は絶対に持ち歩いてくれ。そして失くさないように」

 徽章という事か。やっぱり変な部だ。拓実は素直にそう思った。
 一方、手にしたそれをしげしげと眺め、ゆいは白いその輝きにも劣らぬほど瞳をきらきらさせている。
 そして、

「んっ、しょっと……ほらほらたっくん、どう?」

 余程気に入ったのだろう。白金のアクセサリを早速セーラーの胸元につけると、拓実に見せ付けるように得意満面で薄い胸を張って見せた。
 が、拓実にはそうして見せつける意味が解らない。

「どう、って……言われてもな……」

「陣内君。女の子にそういうのを尋ねられたら、ちゃんと答えてあげるのが男のマナーだよ」

 リアクションに困って言葉を詰まらせた拓実に、イケメンな進一がやや可笑しそうにツッコんだ。

「いや、マナーてワケわかりませんから」

「藤原先輩の言う通りだよたっくんっ! 何かほら、感想とかないのっ?」

「感想か……? ん……そうだな」

 進一の威を借り、ゆいは更に胸を張って拓実へと向けた。
 面倒な奴、と思いながらも拓実は少し考えて、一言。

「高級(たか)そうだよな、そのバッジ」

 アホ毛の幼馴染みはがっくりうなだれた。
 ゆいにはおんなのみりきといふものがないとでもおっしゃるのですか云々、などと呟いたようにも思えたがよく聞こえなかったので気にしないでおく。

 と、その代わりに背後からくすくすと押し殺した笑いが聞こえた。
 見れば、何がそんなに可笑しいのか、ほのかがメガネをずらして軽く目尻を指で拭っていた。

「ふむ、陣内はボケもツッコミも両方いけるキャラ、と。貴重だな」

 あずさも妙に感心した面持ちで、腕組みして何やら感慨深く頷いている。

「だから何ですかそれ……」

「いや、真面目な話だぞ? 笑いは幸せへの一番の近道だ。そして笑いを誘うにはボケとツッコミが欠かせんだろう。だがいかんせん私にはその方面のセンスが乏しくてな。ほのかも藤原もどちらかと言うとボケ寄りで時々難儀するのだ」

「……余計意味が解らなくなりました」

 ここに来て拓実の心身にどっと疲労感が押し寄せた。
 どうでもいいが進一もほのかもボケ査定を否定しない。自覚しているのか。

「まあ、笑う人間と笑わせられる人間、いずれも幸せ者ということだ。よし……それでは、改めて言わせてもらおう。神原、そして陣内」

 と、そこまでの軽い雰囲気を一息で一掃して、あずさは言葉を区切った。
 拓実、そしてしょげていたゆいも自然と顔を上げ、凛とした、その閉月羞花な姿に意識が吸い込まれるような感触を覚えた。

 そして彼女は二人へとそのたおやかな白い右手を差し伸べ、鮮やかな笑顔と共に。


「うたいしえあ部へようこそ。我々は君達を心から歓迎する」


 ――こうして、拓実の一生忘れられない高校生活が、本当の始まりを告げた。



 ...To be Continued...

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ponsun URL 2011年11月06日(Sun)05時41分 編集・削除

拓実くん、ゆいちゃんペースに巻き込まれて…

これも導きなのでしょうか(嬉笑)

〝そのたおやかな白い右手を差し伸べ~〟

純文学の中にいるようです


ありがとうございます

せらつ@中の人 2011年11月06日(Sun)20時16分 編集・削除

 まさか純文学と言われるとは思いも寄りませんでしたw
 内容はともかく、どちらかというとライトノベル寄りの雰囲気を意識したつもりでしたが、これもまあたわしの作風なんでしょうねw
 ありがとうございます^^