超個人的新着RSSリーダー

  • JavaScriptをONにすると、RSSリーダーが表示されます。


     

記事一覧

うたいしこと。(40) :第3章-17

 ・プロローグはこちら

 ・第1章-1話はこちら

 ・第2章-1話はこちら

 ・第3章-1話はこちら


 続き
 



■第3章:ちょっとだけファンタジー ―― 第17話




    ***



 根拠はなかった。
 だがそこ以外に考えられる場所はなかったし、何より、必ずそこにいるという不思議な確信があった。
 だから、迷うことなく拓実は走った。

 はたして、あずさはそこにいた。

 拓実が公園に着いたとき、私服姿のあずさは昨日と同じ鉄棒の根元に屈み込み、鉄柱に背中を預けたまま抱えた膝に顔をうずめていた。
 よく見れば、時折その肩が小刻みに震えている。

「部長……」

 その姿に拓実は少し躊躇したが、すぐに意を決して歩み寄り、声をかけた。

「……じん、ない……?」

 顔を上げたあずさは意外な驚きを隠そうとはせず、頬には、涙の跡。
 初めて見る、弱々しげな彼女の潤んだ瞳に捉えられ、拓実は一瞬息を呑んだ。
 そんな後輩の表情に、今の自分の有様を察したのだろう。あずさは目尻を拭いて苦笑した。

「……情けない所を、見せてしまったな。普段あれほど偉そうな事を言いながら……幻滅したか?」

 いつになく自虐的なあずさに何も答えず、拓実はポケットに入れていたブローチをそっと手渡した。
 受け取りながら、あずさは瞳に先程以上の驚きを浮かべた。

「昨日、ここに落ちてました。たぶん、逆上がりした時に落としたんだと思います」

 手にしたブローチを半ば呆然と握り締め、あずさは抱きしめるように胸に押し当てながら俯いた。
 その肩はやはり震え、ブローチが彼女にとって極めて大事な品である事を窺わせた。

「部長。昨日言ってましたね。うたいしえあ部を作った理由はそれだけじゃないって。もしかしてそのブローチと……それにこいつと何か関係あるんじゃないんですか」

 それは直感でしかなかった。
 だが、そう言いつつ拓実は、持ってきたヌイグルミを顔を上げたあずさの眼前にゆっくりと突き出した。
 あずさはそれをしばらく放心したような顔で眺め、

「そう、か……やはりグラティアが君に喋ったんだな」

「グラティア?」

「彼の……そのヌイグルミの名前だ」

 ヌイグルミがケーッ、と何かを吐き捨てるように甲高い声を上げた。
 そして、あずさの元に駆けつける事しか頭になかった拓実に、ふと忘れていた疑問が蘇る。

「部長……その、このグ、グラティアっていったい……それにどうして黙って……」

「……こんな非常識な事、誰かに信じてもらえるとは思っていなかった。だから、誰にも伝えなくていいと、そう決めていた……」

 不明瞭な問いに、あずさは視線を地面に落とし、何かを押し殺すような声で答えた。
 非常識な事、とは具体的に何を意味するのか、今の拓実には解らない。

 だが、

「……信じてくれなくても構わないですけど」

 ほんのちょっとの哀しみと寂しさ、そして精一杯の勇気とを力にして、拓実は口を開いた。

「俺、昔ここで、魔法少女に出会ったんです」

 あずさが、きょとんとした顔で少年を見上げた。拓実は構わず、言葉を続ける。

「でも、その人が本当に魔法を使えたかなんてどうでもいいんです。その人の言葉は、その時の俺にとって……今の俺にとっても、本当に魔法のようだったから」

「陣内……」

 力なく呟いたあずさへ、拓実はできる限りの優しさを込めて、微笑んだ。

「水臭いですよ、部長」

 いつもあずさがそうしてくれたように。今の自分の、精一杯で。

「本当は……部長がうたいしえあ部を作った本当の目的は、きっとこいつに関係ある事なんでしょう? それを俺達にはどうでもいい事だなんて……俺がこんな言い方するのはおかしいかもしれないけど、部長らしくないですよ」

 しかし慣れない笑みは、そう長続きしない。
 語り続けるにつれ、拓実の胸の奥からこみ上げる何かが、自身の表情を、雰囲気を、徐々に変えてゆく。

「無関心じゃなかった自分に感謝してるって言ったのは部長じゃないですか……」

 真剣な、ともすれば泣き出しそうなほど、胸を締め付けるものへと。

「俺も、ゆいも、藤原先輩や弓削先輩だって、部長が選んだ仲間なんでしょう? 仲間を信じないでどうするんですか!」

「陣内……」

「俺は……俺は部長の力になりたいんです! あの時、この場所で俺を助けてくれた部長に、まだ俺は何も返せてない。だから……だから俺は今、ここにいるんです!」

 途中から振り絞るように語気を強めた拓実の想いを、あずさはただ、自然体で受け止めているようだった。
 そうしてしばらく見つめ合い、

「……私もまだまだ、子供だったということだな」

ふっ、と彼女は軽くはにかんだ笑みを浮かべた。

「今更……私一人の力だけで、何もかも解決しようとしてしまっていたのだな……私がこれを失くしたのも、それに気付くための布石だったわけか。まったく、君達に先輩面して講釈たれていた自分が……恥ずかしいな」

「そんな……部長が何て言ったって、俺にとって部長は……この世で一番の、魔法使いです」

「……ああ。ありがとう、陣内」

 少し涙の跡を残しながら、何か憑き物が落ちたようなあずさの微笑みはどこまでも穏やかで。
 ケーッ、と、ヌイグルミからまたひねくれた奇声が上がった。


 ...To be Continued...

 →■Click to Go to Next.

  • この記事のURL
  • コメント(2)

  •  
                       

コメント一覧

あまがっぱ 2011年12月23日(Fri)19時52分 編集・削除

少し早めですが…
師匠、よいお年を(礼)

せらつ@中の人 2011年12月24日(Sat)06時57分 編集・削除

これはこれはよいお年玉をありがとうございます(玉?
こちらこそ皆々様のおかげさまでよいお年を頂きましたですよ。
あまがっぱたんもよい新年を~ あざーっす!