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うたいしこと。(64) :第4章-22

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 続き
 




■第4章:最後のありがとう ―― 第22話




    ***


 福楽寿園からの帰り道。

 バスを降りた三人は、夕暮れの中、学校への道を歩いていた。
 ゆいは通夜まで残りたそうだったが、鞄などは部室に置きっぱなしだ。完全下校時刻を過ぎてしまえば学校に入れなくなるため、高遠の勧めもあって大人しく帰途についたのだった。

 そんな中、茜色に染まる雲を眺めていた拓実はふと、思い立って、

「部長」

 前を歩くあずさへと声をかけた。

「なんだ、陣内」

 肩越し、いつもの調子で応えた先輩に、少しだけ逡巡する。
 ややあって。

「その、俺……うたいしえあ部に入って、本当に……良かったと思ってます」

「……陣内?」

 あずさは立ち止まり、肩越しにきょとんとした顔を向けてきた。
 麗人の瞳に見据えられ、それでも、もう。
 一度口にした拓実の想いは、伝えきらずにはいられない。

 色々な人に出会えた。様々な事を知った。
 思えばきっかけこそ強引だったが、そうでなければそれらに会うことも、知ることもなかったかもしれない。

 例えそれが、今は悲しみを運んできたのだとしても。
 こんな……温かな気持ちになることは、できなかったかもしれない、と。

「部長……ありがとうございます」

「……そうか」

 万感の想いを乗せた感謝に、あずさは全てを納得したように頷いて。

「そう思ってもらえたのなら、私も部長冥利に尽きる。ありがとう、陣内」

 振り返り、向き合い、強く、そして優しい、あずさらしい笑みを浮かべた。
 自然、拓実もそれに応えるように微笑んでから、

「それと……ゆい」

「ほえっ?」

 今度は隣で立ち尽くしていたゆいへと。唐突な視線に驚く彼女に、

「ゆいがいなかったら、俺はうたいしえあ部に入らないまま、これから先も大事なことを知る機会もないままだったかもしれない」

「たっ、くん……」

 ありのままの偽らざる本当を、心の赴くまま、誰憚ることなく。
 ゆいの、夕空の紅を映した瞳が、微かに揺れた。

「だから、ありがとう……だな」

「たっくん……うん、たっくんも……ありがとう、だよ」

 そうして、ゆいがにっこりと笑みを返した、



 その、瞬間だった。

 あずさの制服の、腰の辺りで突如、何かが強く光を放ち始めたのは。



「! これは……もしや!」

 真っ先に異変を感知し、珍しくあずさは心底驚愕の表情を見せた。
 その光源――スカートの上端につけていた円形のブローチを慌てて取り外す。

「グラティア、これは一体……!?」

 手のひらに乗せた輝きに目を細めながら、唖然とする拓実とゆいには目もくれず、半ば叫ぶような調子で問いかけを発した。
 その光景に拓実は、以前グラティアがブローチを通じてあずさと会話できると語っていたことを思い出した。確かにあずさはブローチ相手に何か受け答えしている様子だったが、グラティアの声は聞こえない。おそらくパートナーである彼女にしか届かないのだろう。

 やがてやり取りが済んだのか、あずさはブローチを目立たぬようポケットにしまうと、

「……王威なる力が、ついに満杯になったらしい」

 その声は、やけに感情を排そうと意図したものに思えた。
 喜びと、しかしこれから訪れるであろう現実、それら全てに折り合いをつけるような音色で……あずさはつとめて淡々と拓実達に告げた。

「それって……まさか!」

 意味するところに気付いた拓実の前で、あずさは何かを抑え込むように頷いた。

「ああ……グラティアが、魔法の国に帰る時が来た」




 ...To be Continued...

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