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■第2章:新入部員初任務 ―― 第5話
その言葉に、拓実は自然と僅かに頷いていた。ゆいもシンクロナイズし、こくり。
一晩経て、自分達でも気付かぬ内にその考え方を吸収していたのだ。
実践できるかどうかはまた別問題ではあるだろうが。
「ここにはもう一つ含みがあってな。その救い方に関する教訓だ。仮に誰かを救おうと我々が色々なものを与えて、相手はほくほくと窮地から脱したとする。だが、それが最終的に相手の身を滅ぼしてしまう事もあるのだ。君達は『待ちぼうけ』という童謡を知っているか?」
「ゆいは知らないです……たっくんは?」
「俺も……」
「そうか。北原白秋の作詞でな、物語になっていて内容はこうだ。畑仕事をしていた農夫が、ある日偶然切り株にぶつかって目を回したウサギを手に入れた。立派な食糧だ。味をしめた農夫は、また手に入らないかなとその切り株で待つようになった。だがそうそうそんな風にうまい話が転がり込むわけでもない。待ち焦がれるあまり畑仕事もおろそかになり、畑は荒れ果て、農夫本来の食い扶持である作物が取れなくなってしまった、というものだ」
自業自得とはいえ実に救いのない話だった。
「感謝の心を忘れたままで思いがけぬ幸運を手にすると、人は次からもそればかりを求めてしまうようになってしまいがちだからな。そこから先、その相手は自分で自分を救おうとはしなくなり、誰かを当てにし続ける人生を送ってしまいかねない。そうなっては最後には誰からも見捨てられるのは自明だ。さっき『情けは人のためならず』と言ったが、まさにこれはその誤った意味そのものだな。誤りとはいえある面では正鵠を射ているのも、意味の取り違えに拍車をかけているのだろう。世知がらい事だがな」
「じゃあ、俺が覚えてたのもあながち間違いじゃ――」
「いや、間違いなく間違いだ」
奇妙な言い回しでさっくり切り捨てられ、拓実はがっくりうなだれた。
「あは、ほらほらっ、たっくんそんなに落ち込まないっ」
「うむ。まあ気を取り直そう。そうそう、順番が前後するが、今のは六にも繋がる事だ」
女子二名に励まされ、拓実はのそっと顔を上げた。少年にも男のプライドというものがある。
そうして見れば、あずさは既に指示棒で六訓を指していた。
その先には、『すぐに「ありがとう」が返ってくると思わない。むしろ将来何倍もの「ありがとう」が返ってくるようにする』との心得が。
「我々の目的は、より多くのありがとうを集める事だ。だからこれはある種の投資、と言えるかも知れんな。鬼になれとまでは言わんが、とにかく相手にとって最終的に良いと思う事なら、今相手に嫌われる事を恐れるな、ということだ。まあ、これは場数を踏んでも中々難しいことではあるがな。それでも心構えとしては持っておいてもらいたい」
「はい……でも、確かに難しそうですね」
あずさの言葉に、拓実は正直な思いを口にした。
相手の事を先の先まで考える。
神ならぬ身、そうそうできることではない。
「まあ、肩肘張ることはない。そうだな……陣内のような男子には、これは例えるなら『奥義!』とか『必殺技!』とでも言った方が聞こえがいいか?」
「なんですかそれ……?」
「別に無理に決める必要はないが、決まれば最後にとても格好良いということだ」
「ああ、なるほど……でも」
鷹揚にセルフフォローしたあずさに、しかし拓実は隣をついと見やった。
「そういうのは、ゆいの方が好きだと思います」
「む?」
つられて、あずさがゆいへと視線を動かすと、
「ひっさつわざ……ゆいのひっさつわざ……えへ、えへへ……」
軽くトリップしているらしかった。
アホ毛を酔っ払ったように揺らしつつ、視点も虚ろにニヤニヤしていた。不気味だった。
「こいつ、そういうビシッと決める系のに目がないですから」
「そ、そうか……」
ドジだから大抵失敗するけど、とは幼馴染みの名誉のために言わないでおいた。
「おーい、ゆーい、戻ってこーい」
珍しく絶句したあずさをよそに、ぺちぺち、と軽くゆいの餅っぽい感触の頬を叩くと、
「ひっさつ、えこえこあざ……ほあ、たっくん?」
「お前今何を唱えようとしてた」
焦点の戻った目に拓実が映り込んだ。黒魔術発動前に間一髪で帰ってきたらしい。
「……続けるが、いいか?」
「「あ、はいっ! どうぞどうぞっ!」」
少し呆気に取られた風なあずさの声に、拓実とゆいは弾かれたようにして前へ向き直った。
また変なところで瞬間心重ねる幼馴染みーズだった。
「うむ……ではラストだな。実はある意味最も難しいのがこの五だ。特におそらく神原、君のようにボランティア経験があり、奉仕精神の豊富な者にとってはな」
...To be Continued...
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ponsun URL 2011年11月14日(Mon)04時57分 編集・削除
ひっさつ、えこえこあざ … らく?
ゆいちゃんのひっさつわざに
かかってみたくなりました(嬉笑)
ありがとうございます