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■第3章:ちょっとだけファンタジー ―― 第16話
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その日は、部長不在のまま部活動を開始した。
週明け、月曜日。
うたいしえあ部では外へ活動に出かける際も、急な依頼に備えて(特殊な場合を除き)可能な限り一人は部室に残るようにしている。
そして今、ゆい、進一、ほのかは出撃中。
というわけで拓実は独りお留守番である。
「しっかし、まさか部長が休みだなんて思わなかった……」
やる事もなく、手持ち無沙汰で拓実は何となくパソコンの前に腰掛け、頬杖を突いた。
伝え聞いたところによると無断欠席らしい。普段のあずさからすると意外だ。
実際それまでずっと皆勤ペースだったという。携帯にかけてもずっと留守電のままだった。
「俺が持っててもなんだし、早く渡したいんだけどな……」
ぼやきながら、拓実はポケットに手を突っ込んだ。
指先に当たったコインのようなそれを、微妙に弄びながら取り出して何気なく目の前に掲げた。
その時だった。
「おい、クソガキ」
急に荒っぽい声がして、驚いた拓実はブローチを取り落としそうになった。
声は拓実のすぐ前、パソコンから聞こえた。
だが電源は落ちている。音が鳴るはずはない。
訳がわからずキョロキョロと辺りを見渡すものの、どこにも人の気配はない。
「コッチだ。ココだココ! ケッ、どこ見てやがんだこのウスラトーヘンボク」
イラついた口調でまた呼ばれ、拓実はようやく声の発生源に気付いた。
それはパソコン……ではなくそのすぐ横。
背中に巻貝を模したオブジェを載せる、ずんぐりむっくりした人相の悪いナマズのような生物のヌイグルミからだった。
なぜ部室にこんな物があるのか、以前あずさに尋ねた時は『マスコットキャラだ』という微妙な返答をもらった。
それ以来拓実はさして重要な品とも思わず、ほとんど存在を忘れかけていたのだが。
「……ちょ、おいクソガキ! 何しやがる離すな降ろすな!」
「スピーカーでも入ってんのか、これ?」
「入ってねぇよタコ! いいから掴め離すな降ろすな!」
ブローチを持ったまま、拓実は空いた片手でヌイグルミの頭を鷲掴みにして持ち上げ、凝視。
するとそいつは、まるでもがいて身体を揺するかのようにガタガタ震えた。
バイブレーターでも入っているにしてはいやに生々しい、不自然な揺れ方だった。
しかし離すな降ろすなとは変な要望だ。この状況なら普通離せ降ろせじゃないのか。
「っつーかよ、おいガキ。なんでてめぇがそいつを持ってやがる。いつどこで手に入れた」
と、奇妙な状況に思考が追いつかない拓実にもお構いなし。
ヌイグルミは急にそのハスキーなイガイガ声のトーンを落とし、神妙な雰囲気を織り交ぜた。しかも変に威圧感がある。
「そいつ……って何だよ?」
「それだよそれ! 持ってんじゃねぇかプラチナ色の丸いうす汚ねえブローチだ!」
要領を得ない拓実に焦れたのか、ヌイグルミはまたしても声を荒げて震えた。
「ああ。昨日夕方部長と偶然会って、別れた後に拾ったんだよ。多分部長が落としたんだろ」
「ケッ、道理で昨日からアズサのボケが音信不通なはずだぜ」
「え……?」
昨日から? 音信不通?
拓実の思考が一瞬止まり、その言葉の意味するところを徐々に理解してゆく。
「それ、って……おい! それどういう事だよ!?」
「そのまんまの意味だボケ。俺様とアズサはそいつを通じていつでも喋れる。だが昨日から何の応答もしやがらねぇ。あのブス今頃必死こいてそいつを探してんぜ、ケケッ」
ヌイグルミの言葉を額面どおりに取れば、つまりあずさは行方不明。穏やかな事態ではない。
拓実は目の前の奇妙な存在が何者であるのかという疑問も忘れて必死の形相で詰め寄った。
傍から見ればひどく滑稽な光景だったが、それを気にする余裕などない。
「このっ、じゃあ部長は今どこにいるんだ! 教えろ!」
「アホか。わかんねぇから音信不通なんだよ。だが俺様はこんなナリだからあのアバズレを探しに行けねぇ……おいガキ」
あずさを侮辱するような喋りに怒りを覚えながらも、なおもヌイグルミを問い詰めた。
ヌイグルミは怯んだ様子もなく、またも声のトーンを落とすと、
「てめぇがそいつを持ってるって事は、アズサがどこでしょぼくれてやがんのかも心当たりがあんだろ」
その言葉に拓実はハッとした。
「よう……そのツラは当たりだな。おいガキ、さっさとそこまで俺様を連れて行くな」
またしても変な要望だった。
だがどうやらこの変な物体がいた方が話が早そうだと直感した拓実は、そいつを片手に掴んだまま部室を飛び出した。
ヌイグルミが抵抗する素振りはなかった。
...To be Continued...
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ponsun URL 2011年12月22日(Thu)06時57分 編集・削除
ナマズのような生物のヌイグルミさん
意外なシツエーションですね
あずささんは、何処に…
ありがとうございます