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 世には、名刀と称される一振りがある。

 それは、抜きん出て鋭い刀のことではない。
 単によく切れるだけの刀のことでは決してない。

 真の名刀とは、
 優れた剣士が手にすれば、切るも切らぬも自由自在。
 切るべきときには切り、切らぬべきときには切らぬよう、
 使い手の意思に沿いその刃を変幻に走らせる。


 一方、ただ切れ味ばかり鋭いだけの、
 切ることしかできない刀は、妖刀と呼ぶ。


 名刀は、平素静かに鞘の中で刃を休ませている。
 有事には抜き振るわれもするが、
 用が済めば自ら鞘に収まることを心得ている。

 しかし、妖刀に鞘は有って無きが如し。
 妖刀は何かを切り傷つけるまでは決して鞘に納まろうとはせず、
 納まったとしても、すぐにまた鞘の外へと抜け出したがる。
 常に血を欲し、常に抜き身でありたがる。


 人は必ず、自分だけの鋭い一振りを携えている。

 まさに唯一無二、使い方一つで護国の宝刀にもなりうる、素晴らしい業物。
 誰しもが、その使い手だ。


 しかし勿体無き哉。
 その殆どは、宝刀たる自覚もなしに、
 ただ無闇に振り回されている。

 いや、そもそも使い手達は、
 それが刀であり、刃であるという認識すらなきまま、
 休むことなく振り回し続けている。



 刀には、重みがある。

 延々振り回し続ければ、どんな剛の者でもいずれ疲れる。
 しかし妖刀はその魔力を以って、
 使い手に振り回すのを止めることを許さない。

 疲れ果てた使い手は、必ずどこかで手元を狂わせる。
 そして必ず、無明の刃で自分や他人を不要に傷つける。


 だから、鞘に入れなければならない。
 妖刀の呪縛から逃れ、鞘に納めることを覚えなければならない。

 妖刀に操られることなく、国士無双の名刀を携え、
 自在の剣を以ってあらゆる強敵にも後れを取らぬ剣豪には、
 鞘なくしては決して成ることはできない。



 刀の名は、思考。
 鞘の名は、瞑想。

 瞑想が、妖刀を生まれ変わらせる。

 瞑想が、名刀を産む。

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