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ストーリー・オブ・ウォーターフィールドサウスノース(17)

 前回の続き。




 満を持し、伊勢神宮へと訪れた南北くん。

 自らが掲げる『天の相法』を極める目的の旅でもありましたが、
 それ以上にむしろ、命とは、生とは、運命とはそもそも何なのか、
 そして、それらを真に司るものとは、一体何であるのか、
 今こそはっきりと見極めたい、という強い思いに突き動かされていました。


 豊受大神を祀る外宮に参拝し、進路を内宮へ。

 五十鈴川の畔で足を止め、
 その先の内宮正殿に祀られし天照皇大神へと思いをはせた、南北くん。
 ここならば、と、川の水で禊を済ませ、断食と瞑想の荒行に入りました。


(  ̄д ̄)「掛けまくも畏き天照皇大神……あまねく照らす太陽の、宇宙の神。
 そうだ……人は皆、天からの火を受けて生まれ、天の火を身にとどめて生きている。
 ……だから『火止(ひと)』と呼ぶんだ。
 それは天より与えられた、天の理によって全て生かされている、ってことに他ならない……。
 人に限らず、草木の一本、虫や魚や鳥や獣の一匹、全て漏らさず、だ」


 観相に関わって数十年。
 膨大に積み重ねられてきた、運命哲学とでも言うべきものを、
 その数々を、南北くんは一人静かに、改めて振り返り、織り上げ続けました。

 それらが指し示し、交わる先にあるはずの……「何か」を求めて。


(  ̄д ̄)「だから、天の相法とはすなわち、天の理に従い、天の理を観ることだ。
 そして、天には天気、天の気があるように、人にも人の気、心の気がある。
 心の気こそが、『にんげん』として直接的に現れる、全ての相の原型になってる。
 ……そこまでは問題ない。もっと掘り下げるんだ」


 来る日も来る日も、幾度となく繰り返す自問自答。
 過去、現在、未来……あるいは空間。
 自らを構成する全てを感じながら、南北くんは己の内へと深く、深く潜り続けます。


(  ̄д ̄)「そうだ……考えてみれば、天の気、太陽の気を健やかに受けるときは、人の気もまた陽で、健やかに勢いを得る。
 つまり人間も一つの小宇宙なんだな……天の気の勢いが陽光に乗って現れるのと同じで、人の気の勢いもまた相に現れる……心の趨勢によって顔の相も変わる。この変化を掴むのが、観相の基本だ」


 自らが辿ってきた道を、今まさにもう一度、一歩一歩踏みしめ直すかのように。


(  ̄д ̄)「天の相法……吉凶を見分けるだけでなく、その人の『命の運ばれ方』を正し、
 より天の理に添って『生きる』べく、俺がやってきたこと……」


 観相を通じ、無数の人々に運命改善の道を施してきた南北くんでしたが、
 しかし実はまだ、僅かな迷いがありました。

 いや、それは迷いと言うよりも、
 『解ってはいるが、確証がない』状態と言った方が正しいかもしれません。


 そうして、荒行開始から数週間が経過した、ある日。


(  ̄д ̄)「……? なんだ、別の参拝客の団体か」


 川辺で座り込む南北くんの傍を、お伊勢参りの集団が通りがかりました。


 ――その時でした。

 すれ違いざま、先頭を歩く観光ガイドの言葉が、
 断食の空腹で遠ざかっていたはずの南北くんの聴覚に……なぜか、はっきりと届いたのです。


川´ー`)「えー、先ほど参拝いたしました外宮に祀られております豊受大神は、別名を御食津(みけつ)神と申しまして、全ての食物を司り――」


Σ(  ̄Д ̄)「!!!!!!!!!!!!!!!!」


 強烈なシンクロでした。

 無知無学を自認する南北くん。
 ここに来る直前に参拝した神様こそ、
 実は食の一切を統べる神だということを一切知らなかったのです。


(; ̄д ̄)「間違って……なかったんだ……!!」


 全身を雷に打たれたかのごとき、鮮烈なインスピレーション。
 南北くんは、声を震わせて叫びました。


(  ̄Д ̄)「天の相法は、食の相法……!
 やっぱり食なんだ……そうだ、すなわち、『食は命なり』!!」


 それは、『食』を中心に据えることによって『運命』の車輪を脱する観相。
 おそらくは世界史上初めて、どの観相家も成し得なかった画期的な道が、
 はっきりと拓かれた瞬間でした――。



 荒行上がりのボロボロの風体で、急いで伊勢から帰宅した南北くん。
 インスピレーションに任せるがまま、何かにとりつかれたかのように執筆へと全力を傾け始めました。


(; ̄д ̄)「今を逃せば、この頭の中に湧き出してくる文章が永遠に消えちまうかもしれない……書かなきゃ、書かなきゃ……!」


 そんな、一種恐れにも似た衝動を、一切抑えることなく。


 こうして出来上がった書、

 『南北相法修身録』

 の中で、南北くんは次のように語っています。



(  ̄д ̄)「人倫の大本は『食』だ。
 誰でもちょいと考えりゃわかるはずさ。人は皆、飲み食いした物を元にしてできているだろ。
 食のあるところに命あり、命あるところにまた、食がある。
 つまり命とは食によって起こり、食によって生きるものだ。
 どんな良薬を駆使したって、食べ物がなきゃ身体を保てないし、とても生き続けられない。
 だから、真の良薬ってのは、『食』そのものなんだ。
 ほら、『食』って字は、『人に良いもの』って書くじゃないか」


(  ̄д ̄)「すると、命を運ぶもの、つまり運命もまた、『食』によるってことになる。
 かつての俺は、観相をするにあたって、この『食』を観ていなかった。
 そのせいで、長寿福相の人が落ちぶれてあっさり早死にしたり、
 逆に短命悪相の人が長生きして繁栄したりすることもあって、百発百中とはいかなかった。
 だけど、運命が食によって決まることを悟ってからは、本当に外れがなくなった。
 それはその人の食生活を聞いてから、観相するようになったがために他ならないんだ。
 よって、食を観ることが、天の相法の奥義なんだ」


(  ̄д ̄)「肉・酒・砂糖などの美食や、大食に明け暮れる奴は、
 それらがみんな醜い心身となって、結果的に一生を棒に振る。
 そもそも、大食やら酒やら肉やら油なんてのは消化に内臓の力をたくさん使うだろ。
 砂糖だって、消化にいいとか言われているけど、実は体全体に与える負荷はバカみたいにデカイんだ。
 だからそんなのを無闇に摂りすぎれば、誰だって必要以上に眠くなって、起きていても心身がだるいまんまになる。
 大事な五臓六腑を馬車馬か奴隷のようにこき使ってんだから、当然の帰結だよな。
 必然的に、限られた人生の時間を大量かつ無駄に浪費しちまうわけだから、
 世間的に立派なことを成し遂げるだなんて、夢のまた夢に成り下がっちまう。
 簡単な道理だろ?」


(  ̄д ̄)「『天は無禄の人を生ぜず』って言って、誰しも必ず、天からの恵み、天禄を受けている。
 けど、その一生分の天禄の量には分限、限りがあるんだ。人それぞれ多い少ないはあるがな。
 で、身の程を超えた大食や美食は、まさしくこの天禄を余計に食って費やすってことに他ならない。
 それを繰り返せば、要は『天への借金』がかさんでいくから、
 何らかの形で返済しないでいると、本人自身に不要な苦労や災いが降りかかるのさ。
 それでも返しきれなけりゃ、その子やら孫やらまで返済義務を負わされることになる」


(  ̄д ̄)「いいか、吉凶を左右する大本は、食生活だ。
 どんな良相でも、分限以上の酒肉や美食に明け暮れる奴は、不運に終わる。
 そんな食生活を続けりゃ、体中が細胞レベルで緩んで腐った気を吐き始める。必ず心も荒んでくるのさ。
 気とか天禄なんて言わなくても、収入が少ないのに外食を繰り返せば貧窮するだろ。それと全く同じだよ。
 どんな悪相でも、食をしっかり慎めば、立派な上に裕福な境遇で栄えるのも夢じゃない。
 ただし、いくら粗食っつっても、大食いで食事のリズムも定まらない奴にそんな可能性はないぜ」


(  ̄д ̄)「そうさ、大食だって戒めるべきさ。
 単純にエンゲル係数高けりゃ家計が火の車ってのも美食と同じだし、
 観相の視点から言えば、そういう奴は一生身持ちが悪くて生活が安定しない。
 食事のリズムや内容が全然定まらない奴も一緒だよ。
 そういうのは、一生苦労や心労が絶えないまま、
 生活の中で安心するということができずに終わる可能性が高いものさ」


(  ̄д ̄)「とまあ、脅すような暗い言い方ばっかりしちまったけど、
 全部逆方向から解釈してくれればいい。
 つまり、食を慎めば、天禄を浪費せず、逆に天への貯金となって、いずれ何らかの大きな幸福の形で帰ってくる。
 健康長寿かもしれない。金銭かもしれない。
 社会的成功かもしれない。伴侶や子宝かもしれない。
 あるいは、絶対的な安息の境地かもしれない。
 本人に帰らなくても、子々孫々に繁栄をもたらすことさえあるだろうさ。

 要は『食が正しければ、心正しくなり、体も正しくなる』
 よっておのずから、『運ばれてくる命、運命もまた、正しくなる』ってこった。

 わかったか?
 災いと幸せとの分れ道が、日々の飲食にはあるんだ。
 毎日の営みだからこそ、絶対にバカにしちゃいけないぜ。
 悪い運命を幸福な運命に変える鍵もまた、食にこそあるんだ!」



 南北くんは一貫して、飲食の重要性を説きます。

 人として最も基本的で、最も重要な営みである、『食べる』ということ。

 あまりに単純すぎて多くの人が気にも留めなかった原始的な行為こそが、
 まさしく運命を左右する根幹であると喝破したこの書は、世間に強いインパクトを与えました。


 ……かくして。
 当代髄一どころか、事実上、史上最も偉大な観相家の一人として円熟の域に達した南北くん。

 やがてその彼が、ついに、
 「名実共に」日本一の座へと就く瞬間が、すぐそこまで迫っていました。



 つづく。



 次回、ナンボククエスト最終話、
東西南北中央不敗・マスターナンボク、暁に死す
 さらば南北。君の事は忘れない。嘘です(嘘かよ!?

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