・オリジナル小説 『うたいしこと。』
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常に曖昧に。
何かを追究する「道」ってのは不思議なものでね。
そこに立つ人は大抵、難しく考える。
だけど「大事なこと」は何もわからなくて、
それでも、だからこそ難しく考えて、
難しく考えて、
難しく考えて、
難しく考え抜いて、
それでもやっぱり本当にわかりたいことはわからなくて、
悩んで、力んで、悶えて、
やがてそんな風にあり続けることに疲れて、力が抜けて、
そうして難しく考えることからすっと手を離した瞬間、
わかるようになっているんだ。
彼らが欲しがる「大事なこと」は、
あまりに当たり前すぎて、さりげなさすぎて、
いつだってただここに、そこに、
そしてこことそこの間の全てに在るだけなのに、
それなのに難しく考えるあまりに、
どこかにあるはずだと追い求め、
掴み取ろうとするあまりに、
気付けないでいるだけなんだ。
いいかい。
あきらめる、という言葉、
その本当に意味するところは、ただ断念することじゃない。
今まで、感じていたのに気付けないでいたもの、
見えていたのに見ていなかったこと、
「どこかにある」という思い込みの傘が生んだ影で隠れてしまっていた、
「いつだってここにある」大事なことへと、光が届くようにすること。
光を遮るものを手放して、影の中に埋もれてしまっていたものを明らかにすること。
「あきらかにせしめること」
それが、あきらめるという言葉の奥にあるもう一つの意味なんだ。