常に曖昧に。
前回の続き。
安永六(西暦一七七七)年。
観相学を究めるべく、武者修行の旅に出た南北くん、この時二十一歳。
故郷の大阪から東へと歩きながら、さすらいの人相見として辻占いの露店を構えて転々とします。が。
|易|(  ̄д ̄)|占|「……」 ヒソヒソ( -д-)(-д- )ヒソヒソ
|易|(  ̄д ̄)|占|「……あのー」 ヒッ!?Σ(゚д゚ )(゚д゚ )
|易|(; ̄д ̄)|占|「……」 ダーッシュ! -=( >д<)( >д<)
極道くずれな南北くんの人相に、道行く人々は怖がって誰も人相を見てもらおうとはしません。
(; ̄д ̄)「な、なんつー皮肉だよ……人々の顔を観るために旅に出たってのに、自分の顔の悪さのせいで誰も近寄ってこないとかって……」
かといって、通行人をひっ捕まえて無理矢理人相を見せやがれと凄むわけにもいきません。
そんな旅を続けていくうちに、懐具合も厳しくなってきます。
とはいえそこは人生の裏街道でたくましく生きてきた彼。
錠前の技術を生かした職人仕事や、師匠・海常に観相学の知識と併せて教わった秘伝薬の調合と販売、更にチンピラ時代に培った歯切れのいい弁舌も相まって、その辺はどうにか食い繋ぎました。
(  ̄д ̄)「芸は身を助けるってのは本当だな。今更ながら感謝だよ」
人生すべてに無駄はない。
そう実感し、感謝しつつ旅を続ける南北君。
すると、天は恵みを惜しまぬもの。
旅の途中でお世話になったある和尚から、古ぼけた被り笠を譲り受けました。
この笠、古いとはいえ結構大きく立派な代物で、被ると南北くんの顔もすっぽり隠れるほど。
使える。
そう判断した南北くんは、早速その笠と着古しの僧衣に身を包み、アレな人相を隠しつつもそれっぽい雰囲気を醸し出すことに見事成功。
(  ̄д ̄)_△「ねんがんの かぶりがさをてにいれたぞ!」
と、アイスソードごっこをしても、殺してでもうばいとろうとする輩が現れたりすることはもうありません。
ここぞとばかりに辻観相に注力します。
その甲斐あって、徐々に彼の観相を求める人が増えていきました。
大阪から江戸を経由して仙台、盛岡、船で一旦江戸へ戻り、東海道を伝って京へと繋がる観相行脚。
途中、いくつもの変名や変装を使いこなして、いつしかついたあだ名が「鵺相者(ぬえそうじゃ)」。
そうして、再び故郷・大阪の土を踏んだのは、旅に出てから六年後の天明二年(西暦一七八二年)のこと。
(゚┏ω┓゚ )「勇者が鵺になって帰ってくるとはのう」
(; ̄Д ̄)「まだそのネタ引きずってたんすか!?」
とはいえ、南北くん自身には帰郷という感慨はありませんでした。
むしろこの大阪も、観相修行における一つの中継地にすぎない、
……はずでした。
(~А~ )「あのー、もしや鍵屋の熊太の旦那じゃありゃしませんかね?」
(  ̄д ̄)「ん、あんたは……ああ! 久しぶりだなぁ!」
滞在中のある日、街を歩いていた南北くんに声をかけてきたのは、かつてチンピラ時代に徒党を組んでいた古い仲間の一人でした。
(  ̄д ̄)「他の奴らはどうしてるんだ? 元気か?」
(~А~ )「それが……みんな死んじまいやがりまして……」
Σ(; ̄д ̄)「はぁ!? おい、何がどうしてそうなった!?」
(~А~ )「あ、いや、みんなってのは大げさなんですがね……実は、熊太の旦那が旅に出た直後にお上の一斉検挙キャンペーンがあったんですよ。それであっしら、ドブ川の泥をさらうみたいに根こそぎ捕まっちまいやして」
(; ̄д ̄)「それでお前泥鰌みたいな目してんのか」
男の話によると、捕まった極道仲間はことごとく牢屋にぶち込まれ、その半分はそのまま病やリンチなどで獄死してしまったとのこと。
牢屋暮らしの過酷さは南北くんも身をもって知っています。しかも一斉検挙でまとめて牢屋に詰め込まれたとなると、衛生面だけで見てもひどい有様になるのは容易に想像できました。
この男は比較的罪状も軽く、早々に住町からの所払い(追放処分)を言い渡されて出所できたものの、いまだに収監中の面々も多数いるといいます。
(  ̄д ̄)「そうか……でもお前はこうして生きて出てこれたんだな。運が良かったなぁ」
(~А~ )「運がいい? 冗談はおよしなすって。むしろ運がいいのは熊太の旦那じゃありやせんか」
(  ̄д ̄)「は? 俺が?」
(~А~ )「そうじゃありやせんか。タイミングよく旅に出て行方くらまして捕り手から逃れた上に、今もみじめなあっしらと違って、そうしてしゃんと生きてるんでやすから……」
(; ̄д ̄)「……」
複雑な心境でした。
運が良いどころか、まかり間違えば今頃、かつて鉄眼寺で供養した無縁仏と同類になっていただろうことは、南北くん自身充分に自覚しています。
もしもあの日、偶然水野海常に遭遇して、易断を受けていなかったら。
もしも、転がり込んだ鉄眼寺の老僧に、試験を出されていなかったら。
もしも、再び海常に出会って観相を志し、師事を求めていなかったら。
その精妙に連なる糸のような、自身の「運」の流れ。
そしてそれは南北くんだけではありません。
旅の間に観てきた無数の人々の顔――すなわち「相」同様、運命も一人一人、一つとして、全く同じものはない。
そんな、心からの実感。
男と別れた南北くんは、物思いにふけりながら、いつのまにか銭湯に足を運んでいました。
(  ̄д ̄)「今更かもしれないけど……やっぱ、「相」と「運」の間には、何かある」
その関係性をとことん突き詰めたい。
体を洗いながら、観相への学究意欲を沸き立たせます。
商人の街、大阪。
人も多いが、何よりその人々の顔が、喜怒哀楽が、言うなれば「活き活きと、生々しい」。
ここで生まれ育ったからこそ、そして長い旅を経てきたからこそ、そんな他の土地との違いが南北くんには感じられます。
今、この地でその気付きを得たのは、決して偶然なんかではない。
この地、この場所こそが、自分の求める観相学を究めるのに絶好の舞台なのだ、と。
――これは、天恵だ。
ならば今こそ、これまでのやり方を更に押し進めていこう。
これまでよりも多くの人々の「相」を観察していこう。
でもそれには、従来どおりの大道易者だけでは足りない。
もっと大勢の人々の「相」を間近で観察できる職や場所はないものか……。
自然と、そこまでの決意と考えが胸に満ちた、その時でした。
(  ̄д ̄)「……ん?」
A∽∽∽∽A
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〔 ▽ △ ▽ 〕
Σ(; ̄Д ̄)「お、鬼ぃ!?」 |<V ̄V>|
湯船に浸かる南北くんの目の前に、突然、人の背中ほどもある「鬼の顔」が現れ出たのは。
つづく。