常に曖昧に。
前回の続き。
髪結い床『サロン・ド・鬼』での仕事を通じて南北くんは、
特に「顔」や「頭髪」から観る相と境遇の関連性、そのデータを大きく積み上げていきました。
期間にして、三年。
その間、南北くんのよく当たる観相の評判を聞きつけて来店し、
親しい顔見知りになった財界人や公人、大物と類される人々さえもいました。
しかしそんな中、割合としてはほんの僅かですが、
南北くんから見て明らかな『悪相』であるにもかかわらず、
類稀な財や地位を築き、更に幸せな生活を送っている人々もいたのです。
世間的には充分な的中率を評価されていたにもかかわらず、
観相を窮めることに意欲を燃やし続ける南北くんは、この『例外』に納得できません。
(; ̄д ̄)「うぅん……これは、顔や髪ばかりを観るだけでは足りないぞ」
思い出したのは、かつて海常師匠に師事した際に聞かされた、この言葉。
(゚┏ω┓゚ )「観相とはものの姿を観ることじゃ。顔のみならず、脳天から爪先、体毛一本にいたるまで、はたまた立ち姿歩き姿座り姿、その他全ての動作も含めた、人間そのものの姿を観抜き通すことじゃ。ゆえに観相学とは、人間学とも言ってよい」
要するに、顔は所詮、人間という肉体の一部分に過ぎない。
「人間学」であるからには、体全体はもちろん、立ち歩き、所作、声、ありとあらゆる「人間を構成する要素」そのものを包括しなければ、いくら顔や頭を睨み続けてもこれ以上は埒があかない。
(  ̄д ̄)「そう、だよな。頭部のデータはもう充分に集まったと思う。だからそろそろ、次は体全体のデータを集める段階に移ってもいいかもしれないな」
そんなわけで決意を固めた南北くん。
鬼店長こと平四郎に、退職届を提出します。
(´ム` )「……さようで。寂しくなりやすが、よござんしょう」
(  ̄д ̄)「ごめんね勝手ばっか言って」
(´ム` )「……なんの。これまで本当に随分と助けていただきやした。それに、」
そう言って、平四郎が向けた視線の先、
サロン・ド・鬼の出入り口……いや、その更に通りを挟んで向こう側。
(´ム` )「……再就職先が真向かいの銭湯ってことなら、ウチへの客足には影響ありやせんでしょうし」
南北くんが次に選んだのは、文字通り目と鼻の先。
サロンド鬼の正面にある、『松の湯』
(´ム` )「……松の湯さんと提携キャンペーンでも組めば、これまで以上の集客だって見込めやす」
(  ̄д ̄)「商魂たくましいなおい」
元々繁華街の一角であるこの近辺には、遊郭も多数ありました。
そのため、名のある旦那方が「遊び」に臨んでまず松の湯で身を清め、
サロン・ド・鬼で身なりを整えるというお約束のコースが定着していたのですがそれはさておき。
既にご近所で名の知れていた南北くん、松の湯側もあっさり〝とらば~ゆ〟を受け容れてくれました。
が、
(  ̄д ̄)「体全体を見るには、裸を見るのが一番。だからこその銭湯なんだけど……むぅ」
この頃の銭湯で働く人々の間には、その担当仕事による階級がありました。
まず新人は「木ひろい」、つまり燃料の焚き木集めとその運搬を任されます。
それを充分こなせるようになったら次は「釜炊き」、要は火の番、ボイラー係。
更に釜炊きでの働きを認められたら「湯番」、湯温や浴室全体に目を配り采配をとる、サッカーで言えば一種のMF(ミッドフィルダー)。
それを長らく勤め上げると「三助」に抜擢されます。
三助とは、湯番がMFならこちらはFW(フォワード)。
お客さんの希望に応じて、背中を洗い流して回る役割。
ちなみに番台に座る「番頭」は、大抵銭湯の主人やそれに準じる人物(女房など)なので、事実上「三助」が従業員の最高ランクなのです。
観相修行には、直接客の体に触れるこの「三助」が最も、圧倒的に都合がいいのは言うまでもありません……が。
(; ̄д ̄)「この調子じゃ、三助になるのに何年かかるかわかんないぞ。なんとかして手を打たないと」
働き始めてすぐに業界の実態を知った南北くん。
持ち前の機転をきかせて、即行動に移ります。
「三助」は、確かに従業員中で最高ランクの身分なのですが、最高なだけあって、これが中々の一仕事。
先に紹介したとおり、遊郭通いの旦那や、その遊郭で働く女性たちも多く訪れるこの松の湯では、背中洗い希望のお客さんは思いの外多く、三助の出番は絶えない有様。
来店客を待たせず、更に順番を間違えず、洗っては流し洗っては流し、気を使う肉体労働なのです。
そのため、三助連中の中には、
(-公-;)(-公-;)「できればもっと楽な仕事がいいなぁ~。あーかったりぃ」
なんて人もいるわけで。
(  ̄д ̄)「ちーっす、新入りの水野南北でーっす。三助の先輩方にはご挨拶の印にこれを」
Σ(゚o゚;)(゚o゚;)「おおっ! 特上寿司大盛り! しかも大トロ! 最高級大間のマグロ!」
(  ̄д ̄)「あ、こっちは幻の銘酒詰め合わせ、あとゴディバのトリュフにロイズの生チョコ」
(゚o゚;)(゚o゚;)「こんなたくさん!? 新人くんホントにいいの!?」
(  ̄д ̄)「もちろんっすよ。全部遠慮なくめしあがってくださいな」
(^o^*)(^o^*)「いやっほーう! 新人くんサイコー! 三助仕事の疲れもふっとぶぜー」
(  ̄д ̄)「ほうほう、三助ってのはそんなにしんどいっすか」
(-公-;)(-公-;)「そりゃもう、任されたからにはやらなきゃなんないけど、できれば代わってもらいたいくらいでね……」
(  ̄д ̄)「だったらひとつ、ものは相談なんですが……」
――新人戦闘銭湯員・水野南北。
こうしてショッカー松の湯入社早々、幹部三助を任されることになりました。
サロン・ド・鬼の時と同じく、
「給料要らず、月に数度の休みをもらえればそれでOK」
という条件を初めに提示していたのも、スムーズに話が進んだ理由のひとつ。
見習い助手ではあるけれど、全て計画通り( ̄ー ̄ )ニヤリ
ハードな三助仕事ですが、南北くんにとっては宝の山。
獲物取り放題の猟場に入ったハンターのように目を輝かせて、文字通り八面六臂の大活躍。
さらには、客が南北くんに投げてくれるチップも、「見習いだから」とそのまま兄貴分の三助にあげてしまうものだから、あっというまに従業員間でも大変可愛がられる存在になっていきました。
そうして、やっぱりお客さんに何気なく話しかけたりして、その全身の相と境遇に関するデータをどんどん積み上げていきます。
(^∀^*)「おーう兄ちゃん、背中流すのうまいやんか」
(  ̄д ̄)「あはは、ありがとうございます。ところでお客さん、観たところ何か家庭の悩みでもあるんじゃないですか?」
(^A^*)「そーなんよ聞いてくれ。実はさ……」
南北くんにとって、目の前のお客さん一人一人、全員がもれなく、観相を窮めるための大切な師であり、貴重な人間標本。
自然、感謝と畏敬の念から、洗い方もコリをほぐすような心のこもったものになっていきます。
切れ味鋭い観相と丁寧なサービス。
にわか三助の南北くんは、ここでも評判上々。松の湯の売り上げアップに大貢献。
観相師としてだけではない、水野南北という人間そのものの人気も、確実に高まっていました。
そして、当の南北くんは。
(  ̄д ̄)「やっぱり、師匠の言うとおり人相とは顔だけじゃない」
という確信を、本当に確かなものにしていきました。
この三助時代の膨大な観察データが、その後の観相師・水野南北の業績に多大な影響を与えたのは想像に難くありません。
……そんなこんなで時は過ぎ。
またも三年後。
三助勤めで着実に観相修行を進める南北くんの身近で起きた、あるひとつの痛ましい事件が、彼にまた新たな決意を抱かせることになりました。
その事件とは……続きの講釈で。
次回・ナンボククエスト第十話、
「わたしのおはかのまえでなかないでくださいそこにゆうていみやおうきむこうほりいゆうじとりやまあきらぺぺぺぺぺぺぺ」
をお楽しみに。嘘です。
(゚┏ω┓゚ )「ゆ
(  ̄Д ̄)「ゆけ勇者もょもと!とかまさかほざく気じゃないっすよね師匠」
(゚┏ω┓゚ )「……腕を上げたのう」