常に曖昧に。
えーっとお知らせ。
前回までこの「ストーリー・オブ(以下略」は《考え事→飲食》カテゴリに入れてましたが、
新たに《物語→水野南北》カテゴリを作って、過去記事も含めて全部そちらに移動させました。
なので以前の話には「物語」としちゃ余計な能書きが入ってたりもしますが、
そーゆー経緯なんで、特に新たに読み進めて頂いた方はご容赦くださいませ。m(_ _)m
んじゃ前回の続き。
初めての弟子・紀州浪人の八助を迎えた南北くん。
その八助、温和な割に案外果断な行動派で。
(=_=`)「師匠、只今帰りましたでござる」
(  ̄д ̄)「おうお帰……って八助、何だその本の束は。それに刀差してないじゃん、どーしたんだよ?」
(=_=`)「拙者、師匠の弟子になりもうした。ゆえに、一日も早く師匠の教えについてゆけるよう、まずは古今東西の観相書を読破しようかと」
弟子入りの翌日には大小の刀を売り払い、
『柳庄相法』『麻衣相法』『陳搏相法』『神相全編』『月波洞中経』『非相篇』などなど、
古本屋で観相学の本を買い漁ってくると、南北くんの前に座って音読を始めました。
海常師匠の教示を受けて後、実学一辺倒だった南北くんも、
思いがけず弟子の口から流れ出す新鮮な知識に、一緒に座り込んで耳を傾けました。
(  ̄д ̄)「(人に教えることとは自分が教わることだ、ってよく聞くけど……師匠もこんな風に俺から学んでたのかなぁ)」
普段物静かな割に、ハッキリと芯のある八助の朗読を聞いていると、
海常師匠に初めて教えを受けた時の事がしみじみと思い出されます。
(  ̄д ̄)「(つっても、これじゃどっちが師匠かわかんねぇなぁ。ま、いいけど)……って八助、今の『五常』ってのは何だ?」
(=_=`)「五常と申しますは、儒教における仁・義・礼・智・信の五つの人徳のことで――」
何はともあれ。
師匠と呼ばれるようになっても、南北くんの学究心は衰えを知りませんでした。
さて。八助が弟子となってしばらく後。
南北くんはさらに、もう一つの重要な出会いを果たします。
それは、以前の働き場で贔屓にしてくれたVIPの頼みで、ある人物の観相へと出向いた時のこと。
行き先は、現代でも薬の町として知られる大阪・道修町。
観相相手の名は、薬種商の若旦那こと三代目小西喜兵衛。
依頼してきたVIPの話では、この喜兵衛という男、とにかく病身病弱な上に不運続き。
あちこちの易者に観てもらったものの、『この相では三十歳まで生きられないだろう』と口を揃えたように判定される始末。
おかげで、ただでさえ貧相虚弱な喜兵衛は、余計陰気に落ち込んでいく一方。
それを見かねた依頼人が、藁にもすがる想いで南北くんを頼ったのでした。
(  ̄д ̄)「なんとか縁起直しできないものか、って頼まれりゃ、まぁひとつやってみるしかないわなぁ……ごめんくださーい」
(●A●-)「本日はぁ……わてのためにぃ、わざわざお越しいただきぃ……ほんまおおきに……」
Σ(; ̄д ̄)「うわっ! めっちゃ暗っ!?」
初めて目にした喜兵衛には、凶相も凶相、短命貧窮の悪相がこれでもかと出ていました。
しかし今回の依頼内容は、単なる観相だけではありません。
この『悪相』を、いったいどうやって『好相』へと押し上げるか。
模索の中で思い出したのは……他でもありません。
南北くん自身がかつて経験した『凶相からの脱却』と『現在にまで至る、向上と理解』、そのプロセスでした。
この日から、南北くんは喜兵衛の相を改善するため、頻繁に道修町へと通いつめます。
相の改善、ひいては運勢・運命・そして生命力の改善。
それらを成功させるべく、まず「相とは何か」、「相は何によって定まるか」、
そして「相を変えるにはどうすればよいか」……八助も交えて、喜兵衛の屋敷で根気よく講義を行いました。
(  ̄д ̄)「相って字は木目って書くだろ。木目ってつまり、年輪のことじゃん」
(=_=`)(●A●-)「「おお、確かに」」
(  ̄д ̄)「顔の、人相ってのも同じなんだよ。
例えば、目は心の窓でさ。顔の相の六割は目の光で決まるんだ。日頃暗い事を考えてれば光は暗く淀むし、善い活力に満ちてれば澄んで力強く輝く。
荒んだヤクザ生活してる奴の血走った目や、いつも愚痴や泣き言こぼして取り越し苦労ばっかりしてる奴の恨むような目は、その心の暗さが目の色にこびりついてできた相なんだ」
(=_=`)(●A●-)「「ふむふむ」」
(  ̄д ̄)「口も同じだよ。口ってのは言葉、つまり意思を発する場所だ。
悪口や不平不満ばっか言ってると、口の端がへの字になる。何度も繰り返せば、その動きがこびりついて、口の形そのものが歪んでくる。悪い相が積もって刻まれていくんだ。
喜兵衛さん、あんたのアルファベットな形の口も同じさ。心当たりあるだろ?」
(●A●-)「はぅ……確かに、そないやったかもしれまへん……」
(  ̄д ̄)「イエスキリストだって、はじめに言葉ありきって言ってるじゃん。それに言葉は考えや思いがあってこそ生まれるし、行動も同じだ。外面に現れるかどうかは一切関係なく、どんな些細な要素でも全部重要で、つまり全部『相』になるんだ」
(=_=`)「なんと……相とは、それほど根深いものでござったのか」
(  ̄д ̄)「つまり『相』ってのは全部、自分で蒔いた種から出たものだ。
考えたこと、思ったこと、口に出したこと、行動したこと……塵も積もれば山となるって言うけどさ、その全部が本当にもれなく積み重なって、年輪のように層となって、その人の人相が固まる。他の相も同様にでき上がるんだ。
例外はないよ、本人がそれを意識していようといまいとね。天網恢々疎にして漏らさずってのは、ある意味そういうことでもあるんだよ」
(●A●-)「あ……つまり、意識してへんっちゅうのが……疎、天網の目が粗いってことでおますか……」
(  ̄д ̄)「おうよ。自分は不幸だ不幸だって嘆いてる奴を見てみなよ。例外なく自分が自分の運命を、相を創ってるって意識がまるで皆無だろ」
(=_=`)「……言われてみればまこと、そのようでござる」
(  ̄д ̄)「いいか。本当の相ってのはね、外側じゃない、内側にあるんだ。
というか本来、肉体に相はないんだ。
生まれつきの悪相なんてのは無くて、それは全部、いわゆる自我から生み出されて、つまり自我が目に見える『相』という姿形をとって、外側ににじみ出てきただけなんだよ。
と、いうことは……だ。八助、喜兵衛さん、どういうことかわかるかい?」
(=_=`)(●A●-)「「?」」
(  ̄д ̄)「俺は何のためにここに来たんだい?」
(=_=`)「それは、喜兵衛氏の運命を好転させるため、でござるな」
(  ̄д ̄)「そうだ八助。そして今言ったとおり、悪相も良相も生まれつきじゃない、後天的なものだ。つまり……」
(●A●-)「あっ……ほなら、わての三十歳まで生きられんっちゅう運命も……?」
(  ̄д ̄)「おうよ、喜兵衛さんにその気があれば、変わるぜ。相は、運命は心持ち一つで変え得るんだ!」
(●A●-)「! せ、先生ぇぇ……」
(  ̄д ̄)「感激で涙ぐんでるとこ悪いが、泣くのはまだ早いぜ。
これから基本方針として、俺の監督下で日頃の行いの見直しと矯正を試みる。で、それを通じて喜兵衛さんの『内側』を変える。そうすれば相も運命も、勝手に変わってくる。俺はそれを身をもって経験してきたからね」
(●A●-)「ハイ先生! わてはいくらでも、先生の教えに従いますさかい……なにとぞ、なにとぞぉ……」
(  ̄д ̄)「俺の袖で鼻水拭くな。んじゃまずは日々の食事、献立から変えていこうじゃないか」
(=_=`)「食事、でござるか? 師匠、それはなにゆえでござる?」
(  ̄д ̄)「さっき、心の姿勢も含めた全部が『相』という年輪として積み重なって現れる、って言ったよな。
逆に言えば、そんな年輪が生じるからこそ観相ってのは成り立つんだ。
ただ、従来の観相学ってのはそこで終わってた。満足して追究を怠ってたんだ。あんたは運がいい、運が悪い、それだけ判定してハイ終わり、ってね」
(●A●-)「ああ……今まで見てもろた易者はん達も、言われてみればそうでおましたなぁ……」
(  ̄д ̄)「俺はこれまで、千人万人の観相を通じて、実学で学ばせてもらってきた。いわば、千人万人がもれなく恩人なんだ。
なのに、そんな恩人に対して、ただ相を見て『あんたは運がいい、運が悪い』ってだけで済ませてんじゃ、相手のためになりゃしない。恩返しにならないんだ。
運が良いならそれを保ち更に押し上げるには、悪いなら悪いなりに好転させるにはどうしたらいいか、そこまで的確に処方箋を出せてこそ、つまり一人一人それぞれが本当に幸せを噛み締めてくれてこそ、ようやく俺も恩を返せたことになるんだ。
そのためには、不幸な人間が不幸になるべくしてなった、その根本的な共通点を洗い出す必要があった。不幸の原因を取り除けば、あとは幸せになる道しか残らないからな。火葬場にまでもぐりこんだのには、そんな理由もあるんだよ」
(●A●-)「ひそひそ(八助はん……あんさん、ええ師匠に恵まれはったなぁ……)」
(=_=`)「ひそひそ(誠に、我が事ながら同感でござる)」
(  ̄д ̄)「っと悪い、話が逸れたよな。
たとえば熟練した庭師は、庭木の葉っぱ一枚見ただけで、その木の健康状態や、庭土の質まで見通しちまう。
それと同じだよ。相は葉っぱ、考えや心は幹だ。いくら葉っぱをいじったところで幹の病は良くなりゃしないけど、逆に幹が健やかなら自然と葉っぱも変わり、緑濃く生い茂る。つまり運も栄える。
でも、それだけじゃない。今の喩えで、何か抜けてるところに気付かないかい?」
(=_=`)「抜けた所、でござるか……? 葉っぱが『相』で、幹が『心』……」
(●A●-)「あ。先生、『庭土』にあたるものがおまへんな」
(  ̄д ̄)「そうだ。葉と幹、つまり木を俺たち人間とすればさ、庭土はその人間の生命を根本的に支えるものだ。
あ、人間の生命つっても、単に肉体の生命ってことじゃないよ。
それだけじゃなく、心も精神も、全部ひっくるめた『にんげん』を構成する全て、ってことさ。
で、俺たちってのは要するに、飲み食いした物でできてるだろ」
(=_=`)(●A●-)「「あ!」」
(  ̄д ̄)「オーケー、その顔は気付いたな。
そう、人倫の大本は『食』だ。
運命って字は命を運ぶって書くけど、そのためには食わなきゃいけない。
でもその食う物ってのも、やっぱり命だ。
食った命にまた命を運んでもらってるんだ。それこそ恩人みたいなもんだ。
そんな命の扱いがぞんざいなら、つまり食い方が悪ければ……具体的には美食や贅沢、暴飲暴食なんかを繰り返してれば、運ばれてくる命の方が愛想を尽かす。つまり運命が悪くなるんだ。
実際、火葬場で見た陰惨な人生を遂げたやつの内臓ほど、いったいどんな悪食だったか知らないが、青黒くて病気そのものみたいな色してやがった。それにこれは一つの例なんだけど、昔の俺はさ――」
そうして、南北くんが続けてしみじみと語った過去――海常師匠に死相を指摘され、必死の思いで麦と豆のみの慎食行に挑み、そして剣難から脱したばかりか観相という道を見つけた実話に、喜兵衛は大いに感激した様子で、
(●A●-)「そないなことが……ほなら先生は今も?」
(  ̄д ̄)「おう、麦飯は一日一合半、酒は好きだけど一日一合以内を続けてる」
かくして彼、三代目小西喜兵衛。
南北くんの指導の下、慎食と日々の心構えの改善に挑み……やがて。
(◎∀◎-)テカテカ
(; ̄д ̄)「……呆れるくらい見違えたなおい。口がターンエー化してやがる」
(◎∀◎-)「いやぁ、それもこれもみんな先生のおかげでおま!」
あれだけハッキリ出ていた喜兵衛の悪相はまるでナリを潜め、
それどころか、明るくイキイキはつらつとした、いかにも大店の若旦那にふさわしい覇気を発揮するまでになりました。
実際にコーチを務めた南北くんにとっても驚きの運命向上っぷりでしたが、
何より誰より、一番心躍っていたのは、他ならぬ喜兵衛本人でした。
感謝の念もあらわに、喜兵衛は南北くんへと、こんな事を申し出たのです。
(◎∀◎-)「つきましては先生、わても八助はんと同じゅう、先生の門弟にしてもらえまへんやろか? そしたら、この近くにわての別邸がありますさかい、遠慮なく自由に使ってもろて構いまへん。そこに八助はんも一緒に住まってもらえまへんやろか?」
(  ̄д ̄)「ん? まあ、それは問題ないし非常にありがたいんだけど、何でまたいきなり?」
(◎∀◎-)「わての先生を千日焼き場にずっと篭らせとくわけにもあきまへん。それに先生はほんまに大したお方や。そんな先生の教えを、わてと八助はんの二人占めやなんて社会の大損失でんがな。ここはひとつ、わてが宣伝部長として駆け回りますさかい、ウチを拠点にもっとお弟子はんを集めまひょ!」
(; ̄д ̄)「あ、ああ……つーか元気になりすぎだろ。嬉しいけどさ」
(=_=`)「しかし、ついに先生もお屋敷住まいでござるか。ツチノコでも捕まえて一攫千金を果たしたみたいなものでござるな」
(◎∀◎-)「ほならわてはツチノ小西喜兵衛かいな! こりゃ八助はん、うまい事言いよりますなぁ!」
(  ̄д ̄)「うまいか? それ……」
こうして、地元でも有力な商家である喜兵衛の強力な援助を得て、
南北くんは本格的に観相家としての大きな一歩を踏み出そうとしていました。
……が、その矢先。
ある悪質な事件が、彼ら南北一門に降りかかってきたのです。
その事件とは……次きの講釈にて。
次回、ナンボククエスト第十三話、
「喜兵衛絶体絶命! 南北一座、一世一代の大芝居!?」
をお楽しみに。嘘ですは嘘です。